京吉はスケッチ、制作、日誌などで、その画業の変遷を残しています。それらの資料には所々に日付が入り、大まかに画業の時間経過も想像することが出来ます。しかし、昭和16 年12 月8 日真珠湾攻撃の一週間後に召集され、昭和17年(1942) 2 月門司港を出港して、ビルマ進攻、中国国境戦での戦火、1944 年5 月15 日捕虜となり収容所での生活、1946 年4 月戦後日本への遣送が始まるまでの間の画業については、残された資料ではわからないままでした。2019 年6 月20 日思いがけず、この空白期間の画業を垣間見ることが出来る知らせが舞い込んで来ました。その中の資料には、1945 年6 月中国昆明 楚雄収容所を発し、9 月重慶収容所へ至る移送の道すがらの風景を写したもの、終戦の日にひまわりを写したものもありました。また、スケッチブックのポケットには中華民国の出版社「新認識社」の1946 年3 月10 日付新聞も入っていたとのことでした。その新聞には「絵画における人間性の問題」と題する京吉署名の一文がありました。
これらの資料で、召集から復員までの期間、京吉がどう絵に向き合っていたのかがわかり、16 歳で志した画業の空白期を補って、2011 年に閉じた80 年の画業を画集として紡ぐことができました。
全集は12 の章立てで構成し、東京美術学校で学んだ修養の時期、その頃から始まる人物クロッキー、長野県飯山で教員生活をはじめ、地域の自然の中で、スケッチを重ね、写実を研究しはじめた作画、召集を受け、戦地・捕虜生活でのスケッチなど。絵の心を消さなかった京吉の作品をまとめた全集の内容の一部を展示しました。
1章 模写 修養
2章 人物に対する愛 スケッチに見るまなざし
3章 風景 生命を育む自然に対する素直な受容
4章 戦争を経て、人物に生命の感動を求めて
5章 守破離 立石春美先生の指導
6章 見い出した気を形に
7章 人物は私の風景 その人物はいわば私の心である
8章 人生の宿題 郷土からもらった作画の仕事
9章 写実 絵作りと気韻生動
10章 感覚の覚醒 スケッチ旅行の力
11 章 瞥見 海外写生旅行 その国の空気と人々 ( 割愛 )
12章 花 ( 割愛 )
資料編
★京吉画業に関わっていただいた方々からの言葉、筆者略歴
★岩永京吉 履歴略表
★1960 年頃の鹿島の文化的息吹、佐賀日本画会の動き
(岩永京吉の寄稿文より)
★岩永京吉美術館 展示企画 ( 1-40 回 )