木版の多色摺りである浮世絵は、色彩の華やかさから、さまざまな色を使って織り出した「錦」に例えて「錦絵」とも呼ばれます。しかし、浮世絵は最初から色彩豊かだったわけではありません。浮世絵版画の出発点となったのは、墨一色で摺られた「墨摺絵」でした。これは、小説の挿絵が独立し、一枚の作品に仕立てられたことから生まれた様式です。ここから、墨摺絵に筆で彩色を施した作品があらわれ、さらに紅や緑など2、3色の版で摺る「紅摺絵」へと発展し、明和2(1765)年、鈴木春信らによって多色摺りの「錦絵」の完成に至ります。天明から寛政年間(1781-1801)は錦絵の黄金期と呼ばれ、文政(1818-30)後期には「ベロ藍」という発色の良い輸入顔料が登場し、浮世絵の色彩表現はさらに豊かさを増していきます。
本特集では、墨摺絵や初期錦絵から、アニリンという化学染料を多用し「赤絵」と呼ばれた明治期の浮世絵までを紹介し、その色彩表現の変遷をたどります。