「私は、佐賀大学芸術地域デザイン学部の三村郁未です」と自己紹介をすると、一体何を学べて、何者になるための学部なのかと問われる。商学部や法学部であれば、経営や法律について学び、経営に携わる人や法律家になる人が多いことがわかるが、「芸術地域デザイン」を学んでいると言われてもピンとこないだろう。そこで、この学部の学生が何を学んで、何を目指しているのかを知るべく、学生2人の活動をのぞいてみた。
この学部には、実際に芸術作品を作り発信することを学ぶ「芸術表現コース」と、地域創生や博物館、メディアデザインなど芸術を受け取る側に近い立場について学ぶ「地域デザインコース」がある。今回紹介する2人は、それぞれのコースに所属し、「この学部ならでは」の活動を精力的に行っている。
1人目に紹介する石丸圭汰さんは、芸術表現コースで西洋画を専攻している。芸術表現コースは、文化教育学部美術工芸課程が前身となっている。日本画、西洋画、染色、彫刻などの専攻がある。油絵具で描く絵画を学ぶ専攻を、美術大学では一般的に「油画」「洋画」と呼ぶが、佐賀大学では西洋発祥の画材を使って制作することから「西洋画」と呼んでいる。
西洋画専攻では、絵画として風景のどこを切り取り、何を描いて、どう見せるのかを考え表現をする学生が多い。しかし石丸さんは、「絵画性」について研究している。絵画のなかに何を描くのかではなく、四角い絵画といわれる「もの」で何が表現できるのかを考えることを、彼は「絵画性」と呼んでいる。これまでの展覧会で、授業を通じて絵画を仕上げるパフォーマンスや、絵画に用いられるキャンバスのふちを切り取ってそれのみの作品を制作し展示していた。単なる絵画作品の制作とは違う方向で「表現」について考えを深めている。
2人目の森田智香子さんは、地域デザインコースのキュレーター分野の学生である。地域デザインコースは、前身の美術工芸課程の各専攻に加えて、学部新設にともない新たにできたコースである。博物館や美術館の運営、美術作品や郷土品の保存・修復を学ぶキュレーター分野、デジタルメディアでの表現を学ぶ地域コンテンツデザイン分野、そして地域創生を芸術という視点で考えるフィールドデザイン分野の3つに分かれる。森田さんは、博物館や美術館で芸術作品や資料の展示、保存、研究を行う学芸員を目指すキュレーター分野に所属している。学芸員の勉強に加え、ゼミでは染色や布の修復を専門とする教員のもとで、自身の出身地である佐賀の歴史に興味を持ち、地元の伝統工芸「佐賀錦」も研究する。佐賀錦の図案や作品、織物やそれらの歴史について勉強し、実際に布を織り、染め剤を使って佐賀錦を作り、卒業研究に向けて学習している。
学生たちは学部の各専攻に所属しているが、表現する技法や学習している内容は専攻の外にまでおよんでいる。石丸さんは、私の学部の友人のなかでも、一般的な絵画を描く作家になると入学当初から思っていた。しかし現在は、絵画を描くことではなく、描かれた「絵画」というものについてパフォーマンスや表現方法を考えている。森田さんは、学芸員の学習に加え、佐賀錦の図案や作品の歴史研究を進めている。彼女はもともと、象形文字が絵柄になっているクリアファイルを愛用しているような、いわゆる「歴女」であった。そのため芸術系の学習だけでなく、関連する歴史も研究していることは、何ら不思議なことではない。2人とも芸術系の学部にいながら、絵を描いたり、作品を作ったりすることをメインにしていない。
最後に私は、デジタルメディアを用いた表現をメインに取り扱う情報デザインのゼミに所属しながら、アニメーションに関わる学習をしている。私は、大学を受験する時からアニメーション業界で働きたいと決めていた。この学部に進学することは当然のようだが、佐賀大学にはアニメーションの専攻がない。映像に関する専門知識は、学部の選択科目で学んだ。実際の作画や3DCGのソフトウェアの技術は、先生方に質問を繰り返したり、技術書を読んだりしながら習得している。
今回紹介した私たちの活動は、この学部の学生たちのほんの一例にすぎない。佐賀大学芸術地域デザイン学部の学生は、各々が所属するコース、分野、専攻、ゼミの中で、各学生が興味を持った芸術分野について、授業や専攻を飛び出し、学生主体で、いわば勝手に研究や制作を進めている。つまり、芸術分野について手広く学んでいる学部なのである。