旧三省銀行2階シャンデリア
古い街並みが残る佐賀市柳町。佐賀市歴史民俗博物館をはじめとする歴史的な建物が多く並び、佐賀城下ひなまつりの時期には特に多くの人々で賑わっています。今回は、柳町にたくさんある見どころの中から厳選して訪ねました。
はじめに「鍋島緞通・さがしもの」へ。
株式会社織ものがたりが「旧森永家住宅」の建物に鍋島緞通の手織工房とお店を構えています。代表の木下さんにお話を伺いました。森永家は、江戸時代から明治にかけて煙草の製造販売、のちに転向して昭和9年まで呉服屋を営んでいた商家です。煙草の葉を鹿児島から仕入れており、十間堀川という運河や長崎街道のおかげもあり栄えたのだそう。
店内の棚のほとんどは、もともと置いてあったものを活用されています。
緞通は、一目一目経糸を緯糸に絡ませて締め付け、文様をつくっていく織物です。木綿でできており、丈夫で虫喰いもないそう。店内では、トントンと心地よい音が聞こえます。上の階で作業をされている職人さんが、糸を締め込んでいるのです。
ドット絵と同じ仕組みなので、多くの色を使って文様を自在に表現することができます。このカラフルな糸、化学染料が使用されています。藍染めのような天然染料は時間とともに色が抜けてしまうそうです。
同じ敷地内にある工房では、緞通の製作実演を見学することができます。この日作業をされていた藤田さんは、この道13年目。
一目一目、ナイフを使い、同じ長さに切り揃えていきます。手触りなどお客様の要望で決まる糸の長さは10~35ミリの範囲で、手がその感覚を覚えているそうです。さすが職人! 藤田さんは元は違う仕事をされていたのですが、伝統工芸に関心があり職人になられたとのこと。鍋島緞通は、徳川幕府への献上品として作られていた歴史がありますが、現代はオーダーメイドで誰でも手にすることができます(気軽に買える値段ではありませんが……)。掃除機以外の機械はなく、全て手作業。1間の絨毯を織るのに約1ヶ月半かかります。糸かけの作業以外は全て一人でつくり、意外と力仕事です。藤田さんは「体調を整えながらの制作は大変ですが、納品してお客様に喜んでもらえるのが一番嬉しい」とおっしゃいます。出来上がった緞通は、自分の“作品”になるのです。代表の木下さんを含め、全員が作り手とのこと。緞通制作に愛を注いでいらっしゃいます。
2つ目は、蔵の形をした「旧三省銀行」。
普段から無料開放しています。歴史的建造物に出入り自由なんて!
↑この裏は、こう↓なっています。
外見からは銀行に見えなくても、吹き抜けの構造が古い銀行建築の特徴を備えていると思っていました。しかし建物の解説によると、旧三省銀行は伝統的な町家建築の形式をとっており、大きな吹き抜けは町家の特徴なのだそうです。
2階に上がると、モダンなシャンデリアに照らされた洋間が。奥には、床の間のようなスペース。
洋間から吹き抜けを挟んで向かい側。北向きですが、窓が広くとってありとても明るい和室です。
建物の裏庭に回ってみます。
前から見ると蔵ですが、後ろから見ると住宅です。
さて3つ目は、2014年に佐賀市から景観重要建造物の指定を受けた市内最古といわれる町屋建造物「南里邸」。三和土(たたき)の土間には、近代日本で活躍された佐賀の女性たちの紹介パネルが並べられており、広々とした開放的な空間です。
佐賀城の北側に位置するこの柳町界隈は長崎街道沿いで、そばに十間堀川や紺屋川があり、物流の要衝でした。だからはじめに訪問した旧森永家のような問屋が多く、商業の町だったのですね。
2階への階段を上がると、書院造の和室。梁の形に味があります。
右手奥の部屋は今は使われておらず「立入禁止」ですが、漆塗りの箪笥が置いてあるそうです。実は佐賀では昔、漆塗りも盛んだったそうですよ! 限られた時間の中で、たっぷりまちの歴史を語ってくださった南里さん、佐賀のまちへの愛を感じました。
お話の続きを惜しみつつ締めくくりの「江頭郷土玩具館」へ向かいます。
まずは建物の外壁にご注目。
佐賀県出身の建築家、辰野金吾の代表作である東京駅の壁と同じ「覆輪目地(ふくりんめじ)」という技法で作られています。レンガとレンガの継ぎ目なんて意識したことがありませんが、普段目にしているもののほとんどは平らになっています。覆輪目地は、継ぎ目の部分が盛り上がったかまぼこ型になっており、高度な技術が必要で、手間もかかり大変貴重なものなのだそう。この近くでは、同年代の旧古賀銀行の壁にも同じ技法が使われています。江頭さんご自慢の壁です。
館内は、江頭さんが昭和24年より70年かけて集めた郷土玩具が所狭しと並んでおり、その数と種類に圧倒されます。収集を始めるきっかけは、戦争でおもちゃが失われてしまったこと。郷土玩具は、日本の暮らしや歴史を物語るものだと、熱心に語ってくださいました。
「鹿児島神宮」の文字が書かれた「鯛車」と「玉手箱」。由緒ある玩具なのだと嬉しそうに話されます。
次々と奥の方から江戸時代の書物の資料や玩具が運ばれてきます。
「寒水(しょうず)の猿がら」は、ころんころん、と見た目を裏切らない素朴な音が出ます。手元に置いて時々鳴らしたら癒されそう。幕末の儒学者、草場佩川著『婆心帳』に同じものが掲載されています。歴史書と並べられた玩具を目にすると、時代から時代へ受け継いで来られた方々に対し、尊敬の念が湧きます。どの玩具についてもお話が尽きません。郷土玩具愛に溢れた江頭さんでした。
個人的には、中庭の枯山水がとても気になりました。きちんと手入れされています。
柳町で誇りを持って生活や活動をされている皆さんとの出会いは、とても素敵なものでした。ここにはまだ愛が隠れていそうです。皆さんもぜひ、柳町で愛を探してみてください。