ARTS ITOYA Craig Martin Wood展と出会う

学校再開の前日、コロナ疲れの家族を連れて車で武雄温泉に向かった。
その道すがら温泉通りの一角に、版画がびっしり掛けてある店舗が目に止まった。温泉をよそに家族で訪ねると、大きく開けた換気と消毒液が完備しているのがいまどきだ。コーディネーターの松元さんが気さくに迎え入れてくれる。ARTS ITOYAとはそんなゆるい感じの出会いだった。

ARTS ITOYAとは

ARTS ITOYAはアーティスト・イン・レジデンスという滞在型制作と展示が行えるアートスペースで、福岡のStudio Kuraの支店。内装は白で統一され、全面ガラスのギャラリーと作業場は、簡単な仕切りがあるだけの自由空間が広がる。そこで国内外の作家が数週間から数カ月滞在しながら制作し、その成果をこのギャラリーで発表する。近所にはその期間に生活できる住宅も用意されている。ぽたりの母体である佐賀大学の講座「SMAART」では19年8月に「モバイル・アートクリニック 武雄編」の講評の場だったそうだ。

 

さて、お目当の版画の作者は、いま滞在制作中のクレイグ・マーティン・ウッド(Craig Martin Wood)さん。デンマークでアートや音楽活動をされており、糸島を経て先月より武雄で制作中だ。作品は床材などに用いるリノリウム版を使った1版多色刷りで、日本でいう彫り進み版画。武雄に滞在中に目に留まった寺社仏閣の風景、市章、花札など和のモチーフに、ビビットな色彩のインクを重ねていく。力強い彫り跡と、外からの視点が差し込むオリエンタリズムのコントラストが、どこか懐かしさを感じさせ面白い。

 

武雄の市章を元に様々なパターンを試す

すでに個展は終了していたが、作品は引き続き展示されている。しかしなぜか全部外側に向けて展示してある。聞けば新型コロナのせいで、ギャラリー内にお客さんがなかなか入ってこないのだとか。こんなところにもコロナの影響があるのかと驚かされる。

 

滞在型制作の醍醐味

掘り進み版画は1色刷るごとに彫り進め、複雑な重ね表現ができる技法。それゆえ後戻りができないため、頭の中で完成形を逆算しながら彫り進めていく。リノリウムは木より柔らかく加工しやすいそうで、ドイツ製のインクがよく馴染む。刷りには一般的にプレス機を使うそうだが、グレイグさんはあえて木のスプーンなどを用いることで力の強弱をつけている。佐賀では頃合いの木のスプーンが見つからず、バレンをはじめ色々試した中でしっくりきたのは、なんとギャラリー備え付けのくつべら!このような偶然が作品に生かされるのもまた、滞在型制作の醍醐味なのだろう。

 

気軽に交流を楽しもう

24日には帰国してしまうというグレイグさん。実は武雄温泉にもまだ入っていないという。それでも日本にいるなら最後に木版画にも挑戦したいと、山で拾ってきたという硬い合板を彫っていた。私の嫁さんがたまたま木版画をやっているので、サンプルを見せながら技法の違いについて片言で説明し、制作に使えそうな端材を差し上げた。コロナ禍の折不自由な思いもしただろうが、せめて少しでも佐賀での制作が楽しかったと思ってもらえればと思う。残りわずかだが、ぜひ皆さんも気さくな彼に会いに行ってほしい。楽しいアートの話とともに、美味しいカフェも教えてくれるはずだ。

 

気軽に見に来てと呼びかけるグレイグさん(右)と、コーディネーターの松元さん
 

ARTS ITOYA
843-0022佐賀県武雄市武雄町大字武雄7271
https://artsitoya.com/

※グレイグさんの滞在は24日まで。その後も様々なアーティストが逐次滞在制作を行う予定。