加茂 賢一 絵画展・生命が響き合う空間

「おもしろい」。「楽しんで描いているのが伝わってくる」。「元気がもらえる」。

小さな点と細く短い線を目で追いながら、来場者が感想を漏らす。高伝寺前村岡屋ギャラリーで開催中の「加茂 賢一 絵画展」での風景だ。

加茂が使うのはマッキーペンとアクリル絵の具。点と線を密に敷きつめて、動物の毛並み、羽根や皮膚の質感を表現する。意表を突く色の組み合わせに見入ってしまう来場者が多い。下の写真は『おばあちゃんと一緒に過ごした時間』。

「いつも頭をひねっている」と加茂自身が語るだけに、ユニークなタイトルの作品が多い。左から、『辛抱と集中力と努力』、『次の相手は恋のエキスパート』、『永鏡を溶かしていくあたたかい戦士の涙』。

動物の生はそのままでひとつのドラマだ。そのドラマを紙の上に表現する加茂自身の内面にもまた創作のドラマが展開しているのだろう。

人物や風景を描いた作品も味わい深い。素直な気持ちが伝わってくる『韓国と日本との友情』。

近年は紙だけでなくキャンバスにも描き始めたという。「大胆に描いた」という自画像、『えんぴつを握る私』。

絵本の一場面のような『手と手と取り合う二人』(写真中央)。

親類が戦争中に撮った写真をもとに描いたという『生命の大河』は圧巻だ。寺院であろうか、剃髪した人が大勢描かれている。人、人、人、そして顔、顔、顔。顔だけが小さく描かれている人物も必ず両目を備えている。鑑賞者を捕らえるような、強さのある目だ。今は亡いであろう人々の、生命の大きなうねりが感じとれる。

「写真をもとに描いた作品も多い」と話す加茂にとって、描く対象である動物や風景は、しばしば未知のものかもしれない。しかし、描き進めるうちに、対象と、加茂の内なる世界がつながる通路ができるのではないか。空間の隔たり・時間の隔たりを超える通路が。通路は生命と生命を結ぶ。写真の中の動物・人物・風景などに生命の存在をかぎ取った加茂の感性が、加茂自身の生命に呼びかけ、生命と生命が共鳴する。紙やキャンバスの上で起きているのは、そうした現象ではないかと妄想してしまう。

もしそうだとすると、「元気がもらえる」という来場者のつぶやきは、生命の共鳴に感化されたものであったか。生命に触れるのは、生命力を養うための最良の手段なのかもしれない。

(敬称略)

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