「卒展」で聞こえてきた話

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  • アバター画像   BY  杉本 達應 プログラムが生みだすビジュアルをこよなく愛する、potariの旗振り人。

毎年1月から3月にかけて、全国各地で美術大学の卒業制作展、いわゆる「卒展」が開催されます。キャンパス内で開催される学内展や、美術館などで開催される展覧会、学科やコース別の展覧会など、規模や形態はさまざまです。卒展の観客は、大学や学生の関係者が多いとおもいますが、その大学の受験を考えている高校生の姿もちらほら見かけます。

わたしは卒展を見るのがすきで、今年はつぎの大学の学内展や学外展に行きました。多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京芸術大学、東京都立大学(システムデザイン学部インダストリアルアート学科)(上の画像は東京都立大学の卒展です)。なかには予約制でチケットがとりにくい卒展もありました。卒展は、キュレーションされた展覧会にくらべると、多種多様なのが特徴です。どの作品も、学生時代の集大成として力がこもっており、その熱量が伝わってくるので、見ているだけで圧倒されます。卒展の多様な作品群を見ると、学生たちの関心事やいまどきの流行、校風や専門性など、いろいろなことが見えてくるのも楽しいです。

ところで、ある大学の卒展で、偶然「朗報」を聞きました。会場で学生さんが、興奮気味に友人と話していたのです。どうやら、そこに展示している作品の作者のようです。その彼女によると、「自分の作品が売れた」のだそうです。なんでも、卒展を見に来ていた観客に声をかけられたのだそう。作品を売ってよいのか分からないので、指導の先生に確認をとってから、売ることにしたと言っていました。後日、作品を持っていくことになっているんだとか。よほどうれしかったんでしょうね。大きな声で話していたので、購入者のプロフィールとか金額など、デリケートな部分まで聞こえてしまいました(わたしは、たまたまその場に遭遇しただけで、けっして聞き耳をたてていたわけではありません)。

この学生さんは、おもいがけず卒展で作家デビューを果たしたことになりますね。外部に開かれて展示されているからこそ、こうした社会とのつながりができたという意味でも、卒展の果たす役割は大きいのだなと感じました。

ちなみに、その作品はとても素敵でした。作者さん、おめでとう。これからの活躍を祈っています。