『燕子花図屏風』と回る茶筒

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  • アバター画像   BY  杉本 達應 プログラムが生みだすビジュアルをこよなく愛する、potariの旗振り人。

この春訪れた、ふたつの展覧会をご紹介します。

燕子花(カキツバタ)を堪能できる展覧会

ひとつ目は、根津美術館で開催されている特別展「国宝・燕子花図屏風:光琳の生きた時代1658-1716」です。

根津美術館
https://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html

根津美術館では、毎年この時期に『燕子花図屏風』(かきつばたずびょうぶ)を公開しているそうです。なぜなら、カキツバタの花が咲くシーズンだから。カキツバタはアヤメの仲間で、湿地に葉を伸ばします。江戸時代から園芸用の植物として親しまれています。

実物の屏風は、純金の背景も群青の顔料をふんだんに使った花の色もややくすんで見えました。この枯れた感じがよいのかもしれませんが、描かれた当時は、どれほど輝いていたのでしょうか。部屋全体の雰囲気を一変させる強さがあっただろうと感じました。

燕子花図屏風の余韻にひたりながら、美術館の園庭へと出てみます。園庭は思いのほか広く、いろいろな道を通ることができます。すると、本物のカキツバタの花が咲いている水辺にたどりつきました。そう、この時期に『燕子花図屏風』を見ると、園庭のカキツバタも一緒に観賞することができるのです。なんて粋な演出でしょう。根津美術館の園庭は都心とは思えないほどに落ち着いていて、ゆっくりと散策されることをおすすめします。

工芸品の未来を見せてくれる展覧会

ふたつ目は、京都市京セラ美術館で開催されている特別展「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」です。

デザインジャーナリスト川上典李子が取りあげた20作家(個人・チーム)の展示です。伝統的なものづくりから、未来的なファッションまで幅広い作品が展示されています。なかでも、西陣織や竹工芸など京都の伝統工芸の後継者によるユニット「GO ON(ゴオン)」の取り組みは、工芸品の未来を考えさせられるものでした。

そのうちのひとつの作品を紹介します。八木隆裕(開化堂ディレクター)+ 石橋 素・柳澤知明(ライゾマティクス)+ 三田真一(クリエイティブ・ディレクター)による《Newton’s Lid》という作品です。

これは、金属製の茶筒が宙に浮かんでいて、ときおり回転するという奇妙な展示でした。茶筒が回転し、ふたが下向きになると、ふたが落ちていきます。といっても茶筒は精密に作られているため、そう簡単にはふたは落ちません。少しずつゆっくりと本体から離れていくだけで、床に落ちることはありません。その後、ふたたび回転して、ふたが上に来ると、ふたが重力にしたがって元にもどっていきます。ふたが閉まる瞬間、「コツン」という音がわずかに響きます。

茶筒を使ったことのある人ならだれもが共感するとおもいますが、あの「ふたの感覚」って絶妙ですよね。ふたを開けたり閉めたりするときに感じる適度な「重み」を、この作品は見事に表現しているなと感じました。

この作品をつくった開化堂のサイトを見ると、茶筒だけではなく、珈琲缶やパスタ缶、菓子缶など、多様な商品を展開されています。茶筒のように見慣れた「暮らしの道具」でも、見方を変えれば新たな価値が生まれるかもしれません。今後、どのような変化をとげていくのか楽しみになりました。