このレポートは、佐賀県立美術館で開催されている「変展」の実行委員会の末次広幸さん(佐賀市立城東中学校美術科教諭)に寄稿していただいたものです。
観るだけでなく、参加型作品もあります!
「世界をなぞる」パフォーマンス作品は、毎日13時より開催して増殖中です‼︎
変展の開催主旨は以下のとおりです。
1. 中央のアートシーンと地方の格差
1980年代終わりから1990年代の美術の状況は、「安井賞」がその役割を終えて閉幕し、当時の学生の間では団体展に対する意識が変わっていきました。近代芸術の唯一性に反対した「シミュレーショニズム」、ニューペインティングとも呼ばれる「新表現主義」の作家が台頭し、アートシーンに大きな変容が生まれました。また当時の美術雑誌では「絵画の死」についても言及されるほど、新しい表現や芸術の在り方について大きく問われることとなりました。
先述したようなアートシーンの情報が中央と比較すると地方にはあまり伝わってこないという現状があり、地方高校の美術部でデッサンやスケッチ、油絵に明け暮れた地方出身の画学生が大学でそれを全否定されるような体験は当時、ごくありふれた出来事だったことを記憶しています。「美術」とは言ってはいるものの、どこにも共通点が見出せないかのような「アカデミックな美術」と「現代美術」、「中学校・高校の美術教育」と「大学の美術教育」に置き換えることもできそうです。この「分断」が少しでもフラットになれば、美術教育がより発展していくのではないでしょうか。
2. 中高生にとってのコンクールの在り方
中高の美術部では現在、スケッチ大会、デッサンコンクール、絵画や彫刻・工芸・デザインなど部門ごとに募集されるコンクール及び展覧会が実施されており、それぞれの部門の独自性や固有性を意識し「適応」することが中高生に求められています。この「適応」が美術にとって、子ども達にとって果たして「普遍的」「本質的」であるのか追求し見極めていくことが今日の課題となっています。
目まぐるしい変化を見せているこの現代社会において、スケッチやデッサンなどの基本的な技能や表現力の習得はもちろん、ジャンルを超越した幅広い発想力、想像力、そして社会への「問い」を見出す力も重要であると考えます。既存の「コンクール」の概念をアップデートし、美術教育を通して社会を生き抜く子ども達を育てていきたいと強く願っています。
3. 「価値を生み出す」ことへの価値観の「変化」
今回のワークショップでツーバウンスの皆さんに企画・実施してもらった『0再生動画を作ろう』では、「バズる」ことが必ずしも絶対的な価値というわけではない、「バズらない」「再生されない」動画にも面白いものがあり価値がある、というようなことを伝えてもらいました。本当の「価値」を見出すためには「他人の意見を聞きながら、自分が作り上げていくものだ」という「他人軸」を基に「自分軸」を形成することが大切であり、現代社会が要請していることだと言えるのではないでしょうか。
現代社会が抱える個々の問題に「正解」や「最適解」を出すことが、必ずしも問題を解決に導くとは限りません。一見無関係に思える事柄に共通点を見出したり、「当たり前」と思われている事柄に疑問をもつこと、「失敗」と思われていた事柄に新しい価値を見出したりすることが今まで誰も予想しなかった未知の領域に連れて行ってくれます。
そのような視点に立って考える人間を育てるのが、今後の美術教育の役割だと考えます。「自分軸」で現在の社会状況に疑問を投げかけ、それを他者に提起して価値を生み出し「変化」を起こす、そういう力を発揮してくれる生徒が集う展覧会にしたいという願いからこの「変展」を企画しました。
文責:変展実行委員会 末次 広幸