中国から伝わった団扇をもとに、日本で生み出された折り畳める形式の扇。
早く十世紀末には中国や朝鮮半島に特産品としてもたらされ、
近代に至るまで、日本が世界に誇る一品でありつづけました。
また宗教祭祀や日常生活における用具としてだけでなく、気分や場所、季節に応じて取りかえ、
携帯できる扇は、貴賤を問わずいつでもどこでも楽しめる、最も身近な美術品でした。
和歌や絵が施され、贈答品として大量に流通すると、
人と人をつなぐコミュニケーション・ツールの役割も担いました。
さらに扇は、屛風や巻物、そして工芸や染織などとも結びついて、多彩な作品を生み出していきます。
あらゆるジャンル、あらゆる流派と交わる扇には、
この国の人々が求めてきた美のエッセンスが凝縮されているのです。
本展では、日本人が愛した「扇」をめぐる美の世界を、幅広い時代と視点からご紹介します。
動かし翻すたび表情を変える手中の扇のように、「扇」の多面的な世界をお楽しみください。