2019年2月19日、フローレンス・ドワイヤー(Florence Dwyer)によるワークショップが佐賀大学有田キャンパスで開催された。講師のドワイヤーは、イギリス出身のアーティストで、東京のアートNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT / エイト]と、Creative Residency Aritaが行うアーティスト・イン・レジデンスプログラム(AIR)を通じて佐賀県有田町に滞在した。彼女は、東京と有田を中心に「家」を訪問して、江戸時代にみられる長屋を発端に現在の居住空間─過密した空間における─コミュニティの醸成と、生活用品や工芸品がどのように時代を越えて空間に溶け込んでいるのか探求したいと希望して来日した。
ワークショップは学生向けに開催され、佐賀大学芸術地域デザイン学部1〜3年生6名が集まった。ブラック・マウンテン・カレッジの教育に基づき、実際に手を動かしたろくろ作業や記憶にあるものを具現化する手法で行われた。ブラック・マウンテン・カレッジとは、1930年から実践的かつ学際的なアプローチで影響力のある教育を行ったアメリカのノースカロライナの学校である。
午前11時、しとしとと雨が降る中でワークショップは始まった。まずはドワイヤーの自己紹介や今まで行ってきた活動の紹介、今回のワークショップについてのレクチャーが行われた。
午後1時、いよいよワークショップがスタート。前半は、それぞれに与えられた粘土を、目で見ながらではなく、今思っていることを呟きながらこねるというものだった。最初は全員が緊張していたのか、周りの様子を伺っていたが、すぐにそれぞれが思っていることを呟き始めた。「眠い」、「なんかきつい」、「大学辞めたい」、「課題やばい」と聞こえてくるのはネガティブな言葉ばかり。天気のせいなのか、はたまた国民性なのか…と私はしばらく考えていた。次は、他の人がこねた粘土を撫でてまわった。それぞれが違う形をしていて、呟いていた言葉がネガティブなものが多かったからか、何となく怨念のようなものが粘土から伝わってきたように思えた。
後半はペアになり、ろくろを使ったワークショップをした。一人が指示を出して、もう一人がその指示に従いながらろくろで作品を作るというものだった。その内容は、目をつぶりながらやる/利き手じゃない手を使う/親指と人差し指だけ使う/手の甲だけを使うなど、各ペアごとに違い、みんなが苦戦しながらも楽しそうに作品を仕上げていたのが印象的だった。
最後は、自分が好きだった空間を思い出して、紙に色付きテープで間取りを作り、その空間にあったものを粘土で作るというものだった。それぞれ、学校の図書館や自室、実家のリビングなど思い出の場所を回想しつつ、粘土で自由に作り上げていった。
講評でドワイヤーは「どの作品も素敵」と褒めつつ、ワークショップで行った「感覚で楽しむ」ことを忘れないでほしいと語った。参加した学生は、今まで大学の授業では、いかに作品を上手く作るかという技術的なことばかりやっていたので、このワークショップのように「感覚で作る」ことが新鮮で楽しかったと感想を述べていた。私も、理論などに縛られずに自由に作品を作るのは楽しいと感じ、今の学生たちには自分の感覚をもとに楽しむことが足りていないのではないかと思った。また、様々な年代の人や地域の人も交えてワークショップを行ったらもっと楽しくなりそうだとも思った。
[ワークショップの情報]
フローレンス・ドワイヤーによるワークショップ
日時:2019年2月19日(火)11:00-16:00
場所:佐賀大学有田キャンパス
講師:フローレンス・ドワイヤー
主催:Creative Residency Arita
アーティスト・イン・レジデンスプログラム企画運営:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ、Creative Residency Arita
撮影:石丸裕史