北島治樹展に寄せて 観念のパースペクティヴ
野中耕介(佐賀県立美術館学芸員)
絵とは本来、「みえないものをみえるように表わす」すなわち、観念を表わすものである−かつて若き日に、北島治樹はこう語っている。そして、その視線と画作の態度は、令和の今日に至るまで毫も変わっていない。
北島の抽象への志向は、二十代初めに遡る。坂本善三との出会いによって、彼は独立展への出品を決意し、日本的な−日本の風土や日本人の心性を滲ませた抽象表現の探究に惹き付けられていく。
北島は観念としての「祀」への関心から、祀られるものが在る場である「山里」、そのイメージの表出に、長らく心を砕いている。彼によればそれは、そこがなぜうつくしいのか−山里に宿る美の規範を探る行為であるという。降り積もった時間と、その中で人間と自然が育んだ風土、そうしたものの観念のはるかな眺望を、北島はアクリル絵具の重層をもって描き出そうとする。
北島の作品はどれも、絵画の原初的要素である色彩と線(あるいは形)に還元された、極限の面貌をたたえている。しかしそれらは決して無表情ではなく、不思議なことに、あらゆる観者を受容するようなしなやかさと温かみをもそなえている。それは絵画というものの存在の、未だ失われない可能性を垣間見るようであり、北島はそのことを静かに、かつ雄弁に私たちに語りかけていると思えるのだ。
ごあいさつ
自分の好きな色と形を探りながらドローイングを作っていた若い頃、幼い日々、山里で遊んでいた感覚と同じことに気付き「山里」の概念と出会いました。
晩秋や早春の色の豊かさ、風化の質感、祀ってあるもの、山里に至る古い街などを題材とし山里の「はなやいで静か」を主題として、そのイメージを抽象表現し続けました。50 年以上描き続けて来たこの画業を振り返ってみたいと思い、今回の作品展示としました。ご高覧頂けましたら幸いに存じます。
山里の美しい理由を探求する旅はまだ続きます。
2025年3月吉日 北島治樹
1950 佐賀県小城市生れ
1968 佐賀県立小城高等学校卒業
1972 佐賀大学教育学部卒業
第40回独立展初入選
(以後毎年出品人選 新人賞・奨励賞4回・野口賞・特別賞)
1973 佐賀大学特設美術専攻科修了
佐賀美術協会展 県知事賞(他受賞多数)
1988 第38回佐賀県展 県知事賞(他受賞多数)
1989 第57回独立展 安田火災美術財団奨励賞
1995 文部省教員海外派遣(ヨーロッパ研修)
2005 第73回独立展 会員推挙
2010 岩国美術展審査 以後5回 美術講演2回
2013 長崎県展 審査および記念講演
2015 佐賀県芸術文化賞受賞
2019 佐賀美術協会理事長(~’25.3 3期6年)
他、九州青年美術展・字部ビエンナーレ・青木繁大賞展・英展などで受賞・入選、
個展21回、グループ展多数
現在独立美術協会会員(審査員)
※公共の場での展示を条件に、作品を寄贈いたします。
詳しくは会場にてお問い合わせください。