酒井一吉は、祖父母が被爆者であるという出自から「ナガサキ/NAGASAKI」を見つめ、これまでに、被爆で倒壊した教会を題材とした「浦上天主堂再現プロジェクト」や《平和祈念像》に扮したパフォーマンスなどを通して、「ナガサキ」への問いを投げかけてきました。本展で酒井が発表する作品は、長崎市の《平和祈念像》に見られる「手」の造形を起点としながら、「語り」をめぐる制度や身体性について光を当てるものです。彫刻が「手」で語るものは何か。また聴覚や視覚に障害をもつ人の被爆体験について、手話の「手」、点字という「手で認識する言語」をモチーフに、“語るべき人の語られなかった証言”についても取り上げます。
戦後80年、戦争体験者による直接の「語り」が不可能になりつつある現実を前に、しばしば未来への継承が議論に上っています。語る主体の不在を危ぶむ声は小さくありませんが、酒井の「語り」に対するまなざしは、静かな彫刻の「手」、制度の中にある「語り」の在り様をとらえ、さらには多くの必然の「沈黙」があることを浮き彫りにするでしょう。幽語(ゆうご)―幽かに語る・語られる声―。その声を、私たちは聞き取ることができるのでしょうか。
関連イベント
アーティスト・トーク「幽語と対話する──AIとともに語る記憶と沈黙」
開催日:8月2日(土)
時 間:13:30-14:30
会 場:ギャラリーⅢ *参加無料 事前予約不要
