多くの方にとって、美術館とは「展覧会を観に行くところ」かもしれません。しかし美術館には展覧会の開催と並行して担い続けているさまざまな役割があり、その重要なひとつが「コレクション」をめぐる仕事です。
熊本市現代美術館の作品収集方針にはその収集対象の基準として、地元ゆかりの作家の作品、国際展などで発表された優れた作品、当館の各展覧会で紹介した作家の作品、といった事項を掲げています。本展では、これらの収集方針と対応する構成で、地元の美術史をさまざまな側面から物語る作品群をはじめ、世界的作家が熊本での展示を機に制作したコミッション作品や、近年の時代状況を反映した若手作家の仕事まで、当館コレクションのエッセンスをご紹介します。
各種の展覧会は、会期を終えれば姿を消してしまいます。しかし、その出展作の一部が当館コレクションに組み込まれることによって、その企画や作品の記憶は、展覧会の同時代にいあわせた人々だけでなく、10年後、20年後、さらに未来を生きる人たちにも共有され続けていくことになります。それらの企画や作品は、コレクションによって「熊本の一部となる」ともいえるでしょう。コレクションとは時代を超えて受け継がれる一種の記憶庫であり、地域のアイデンティティを形成する存在でもあるのです。
今回のコレクション展示をとおして、熊本市現代美術館の20年あまりの活動のなかで蓄積されてきた文化的記憶をたどるとともに、パブリックコレクションの意味を確かめ直すことができれば幸いです。