1920年代に異国の地で頭角を現し、第2次大戦下の時勢に翻弄され、故郷へ戻ることなく没した日本人画家というと、みなさまは当館コレクション展でもおなじみの藤田嗣治(1886~1968)を思い浮かべるかもしれません。しかし、この経歴に当てはまるのはけして藤田ひとりではありません。
16歳の時にアメリカへ渡った国吉康雄(1889~1953)もそのひとり。アカデミックな要素を持ちつつも比較的自由な環境で絵画を学び、仲間たちと新しい表現を試みる前半生は、藤田とも重なります。新天地として藤田が夢見たアメリカと、アメリカで最新の美術を目にした国吉が憧れたフランス。両国ではデュラン=リュエルやヴォラール、スタイン兄妹のような画商や蒐集家による展覧会等が盛んに開かれました。時代の流れに沿うように、1929年の世界大恐慌の前後、藤田はニューヨークへ、そして国吉はパリへと向かっています。歴史の中で交錯する彼らの足取りをたどるうえで、当館コレクションの他の作家の作品もヒントとなるでしょう。
藤田の「乳白色の肌」を持つ優美な女性像と、国吉のずんぐりとした量感あふれる人体表現は、まったく画風が異なります。しかし2人とも、ポスト印象派やオールドマスター、キュビスムなどといった、当時目にすることのできたさまざまな美術を下敷きとしているのです。長い外国暮らし、また類例の少ない画風から特異な存在として語られることの多い両名ですが、20世紀の芸術家として、彼らの置かれた状況は実際どのようなものだったのでしょうか。本展では、多岐にわたる彼らの活動の一端をご紹介します。
国吉康雄作品の充実度において他の追随を許さない福武コレクション。このたび公益財団法人福武財団、国立大学法人岡山大学のご厚意によって、福武コレクションと県立美術館&不知火美術館のコレクション展示が叶いました。県内でテイストの異なる国吉の展示が同時に2つお楽しみいただける、大変お得な企画展です。どちらもご来館くださった方には、ちょっぴり嬉しい特典もご用意しております。
平成最後の新春、熊本にいらっしゃる方は、当時アメリカで一世を風靡した国吉の作品を一度ご覧になってみてはいかがでしょう。
会場は、熊本県立美術館本館2階第3室。