長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 世界文化遺産登録記念
クアトロ・ラガッツィ 桃山の夢とまぼろし ―杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ
国際的に活躍する現代美術家の杉本博司は、2015年にイタリアのヴィチェンツァにあるオリンピコ劇場を訪れた際、天正少年使節が描かれた16世紀末の壁画と出会います。イエズス会主導のもと九州のキリシタン大名がヨーロッパに派遣した少年たちは、日本における布教の果実としてポルトガル、スペイン、イタリアを訪れ、フェリペ二世や有力諸侯、そしてローマ教皇に拝謁し、本場のルネサンスをリアルタイムで目撃しました。そしてその旅の途上、この劇場にも立ち寄っていたのです。この出会いをきっかけにイタリアでの使節の足取りを調べた杉本は、自分が既に少年たちが訪れた幾つかの場所を撮影していたことを知り、以後は意識的に彼らの足跡を辿って撮影を続けます。それは天正少年使節の足跡をめぐる旅であると同時に、日本と西洋を往還してきた自身の精神の出自をたずねる旅ともなりました。
本展は、杉本によるこの天正少年使節関連の近作群(「海景」シリーズを含め全28点)を、使節関連の貴重な史料や同時代の南蛮美術、キリシタン美術等(全58点)と共に展観するものです。無限に豊かな階調と細部を持つ杉本の大型作品と、長崎の「岬の教会」を描いた《南蛮渡来風俗図屏風》(公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館)やローマのジェズ教会が保管する3点の日本殉教図を始めとする貴重な作品・史料との対話をぜひご覧下さい。
長崎県美術館は、使節が1582年に出航し、8年後の1590年に帰還した地・長崎港を望む地に建っています。まさにその場所において杉本と少年たちのまなざしを400年の時を越えて重なり合わせる本展は、近世の幕開けに起きた東西の文化衝撃の鮮烈なありようを見つめ直すまたとない機会となるはずです。