2018年9月30日から11月18日にかけて佐賀県立美術館で、佐賀出身の3人のアーティストによる「三人展」が開催された。
出展作家のひとり、メディア・アーティストの八谷和彦は、2003年より《OpenSky―欲しかった飛行機、作ってみた―》プロジェクトを開始。『風の谷のナウシカ』の架空飛行具「メーヴェ」をコンセプトに実機を制作した。様々な行程を経て、2013年にはジェットエンジンを搭載し実際に空を飛んだ。会場にはこの「M-02J」の実機がある。
陶芸家・葉山有樹の展示は、4つの作品をひとつにまとめても、ひとつひとつの作品としても鑑賞できる空間設計になっている。静かに落下する雫とその波紋を鑑賞する《鼓動玉盌》(こどうたまもい)では、次の雫が落ちる瞬間を待って時間の経過を忘れてしまう。
画家・池田学の展示は、3年余りの時間をかけて完成した大作《誕生》をメインに64点の作品が並ぶ。少し離れたところから鑑賞していても、隠し絵のように描かれた人物(動物)を見つけると、もうひとつ見つけたくなって近づいてしまう。
メーヴェの操縦体験ができるらしいと聞き、「はやくメーヴェが見たい! 乗りたい!!」と期待を胸に、足早に展示室へ向かった。
八谷和彦の展示室は、大部分がメーヴェに占領されている。想像していたものとは違いビッグサイズだ。メーヴェの周囲の壁で、これまでの活動の経歴を写真や漫画で紹介している。展示室の一番奥に、お目当ての飛行体験装置を発見。とりあえず他の展示を後回しにして向かう。しかし、「乗りま~す!」「どうぞ~!」とはいかないようで、まずは第1関門「クイズに挑戦!」。かなりマニアックなクイズに6問中3問以上正解しないと「シミュレーター搭乗券」が発券されない。第2関門は、「シミュレーター解説動画10分視聴」。ここまで来ても、まだ10分課せられる。このほか身長140センチ以上、体重40キロ以上80キロ以下という制限もある。こうした関門を何とかクリアし、いざ搭乗。10分の解説動画を見たにもかかわらず、係員2名がぴったりと寄り添ってのご指導つき。持ち時間の3分間は「自由気ままに空の旅」とはいかず、「言われるがまま」の不自由シミュレーションに終わった。
葉山有樹の展示室は、「mutability-無常-」をテーマに澄んだ空気が漂うイメージの空間。作品数は4点のみで、4点すべてをひとつの作品として鑑賞することもできるし、1点ずつ鑑賞することもできる。特に印象的だったのは、壁画《有為転変図》。文字のない絵本を開いた感覚で、物語を自分で作りながら作品を眺めることができる。その中心で音もなく雫が落ち、波紋が広がる様がいっそう落ち着いた気分に導いた。
池田学の展示室は、作品が規則正しく並んでいる。ペン先で細かく描かれた作品には、隠し絵的な発見をする楽しみがあり、なかなか素直に横へ移動できない。次に進んでも、「おや? 待てよ」ともう一度もどって確かめたくなる作品が何点もある。子どもの頃に読んだ『旅の絵本』(安野光雅作、福音館書店)を見たときと同じ感覚を思い出した。この点は、頭のなかで勝手に物語を作って楽しめる葉山の《有為転変図》を見たときと同じ感覚だった。
展示のラストに、《誕生》。ただただ感心。作品の大きさと、うっとりしてしまう色づかい、神業的な細かい描写は、実際に見なければきっとわからない。
1度目は自分のペースで鑑賞できるようひとりで訪れた。美術館鑑賞初心者の私にはちょうど良い作品量で、子どもに親しみやすい展示物があるので、2度目は小学5年生の息子を伴い訪れた。日曜日だったため家族連れが多く、やはりメーヴェ周辺が賑わっていた。
息子は操縦体験を楽しみにしていたが、体重制限に引っかかり体験できなかった。相当にすねていたので、ほかの展示はさらっと流し、外に出たいと言い出すかなと思っていた。ところが予想に反し、全体をゆっくりじっくりと鑑賞。「ちょっとこっち来て!」「こんなの見つけた!」と楽しんでいる様子でほっとした。こどものペースと視点で鑑賞するのも、新しい発見があり結果的に面白かった。私同様、池田学の展示では素直に横へ移動することなく、進んでは戻りを繰り返し、2度3度と同じ作品を楽しんでいた。
ふらっと立ち寄るにはちょうど良い展示量。色々な目線で繰り返し訪れる面白さがある「三人展」。かしこまらず、ぜひご鑑賞を!