まちの看板フォントを味わう まぁるい文字が魅力の洋食屋「かごしま」

街なかには、さまざまな看板があふれている。看板はその店にとっての「顔」といえるだろう。今回は独特な「顔」を持つ洋食屋「かごしま」を紹介したい。

「かごしま」は、佐賀市に昔からある洋食屋だ。メニューは大きく分けて、ライス・サラダ・貝汁がついた定食と、一品料理の2種類からなる。エビフライやハンバーグなどの洋食の王道から、とんかつや豚肉しょうが焼きといった和食まで幅広い。

店は、片田江の交差点を南に下った、横に長い2階建てビルの左端にある。年季が入った白タイル貼りの外観は、決して派手ではない。店の上部だけタイルが緑になっている。その緑のタイル部分を対角線で切るような白い直角三角形が、洋食屋「かごしま」の看板である。「かごしま」の文字は赤く、縦長で丸みを帯びている。その中でも「ご」の書体は非常に特徴的である。「0」を横半分に切ったような形をした「こ」の右上に、濁音の点々を表す丸が控えめに2つ書かれている。この「ご」のレタリングが「かごしま」の文字を特徴づけている。

私はこの「ご」の文字を見て、高校の先生が言っていた「しなやかな人間になれ」という言葉をふと思い出した。それは「柔軟性をもってどんな状況にも対応できるようになれ」という教訓だった。「かごしま」の字を一般的なフォントで見てみると、「か」「し」「ま」にはそれぞれカーブがあり元々丸みを帯びているのに対し、「ご」はカーブが少なく丸みがない。しかし「かごしま」の「ご」は、しなやかに曲がることで、「ご」らしさを保ちつつ、他のどの文字にも負けないような丸みを帯びている。この「ご」こそが「かごしま」らしさをもっとも表現し、洋食屋「かごしま」の看板を魅力的にしている。

「かごしま」の料理にも、このしなやかなデザインに通ずるものを感じる。たとえば、カツカレー。カツカレーと聞くと、おそらく多くの人は、4:6の割合で白いご飯とカレーが盛られ、その上に細長くカットされたとんかつがのったものを想像するだろう。しかし「かごしま」のカツカレーは、一般的なイメージとかなり異なっている。それは両の手のひらを広げたぐらい大きな平たい皿にのって運ばれてくる。さぞかし大きなカツカレーが来てしまったと思うかもしれないが心配はいらない。カツカレーが占める面積は、その皿のふた回り分ほども小さく、こんな量で足りるのかと感じてしまうほどだ。

そして最大の衝撃は、カツカレーの見た目だ。なんとご飯とカレーがすでに混ざっているのだ。よく見ると、とんかつも正方形にカットされカレーに溶け込んでいる。それら集合体のてっぺんにはグリーンピースと卵そぼろがデコレーションされ、彩りを加えている。傍らには福神漬けが主役を邪魔しないように、しかし確かな存在感をもって配置されている。大きな皿の上で茶、緑、黄、赤がそれぞれの役割を果たし、まるで1つの作品を見ているような見応えがある。

口に入れると、スパイシーなカレーの味がしっかり染みたご飯とカツが見事に調和し、非常に美味しい。カツが一口大になっているため食べやすい。食べ終えると、少なく見えたカツカレーがちょうど良い量であったことがわかる。このカツカレーも、お客さんの食べやすさや満足感を得るため、一般的な姿からしなやかに変化したのだろう。

「名は体を表す」ということわざがある。洋食屋「かごしま」の看板からは、長年店を構えてきた信念と、独自の進化を遂げた料理の柔軟性を感じる。ぜひ、洋食屋「かごしま」を目で、口で味わってみてほしい。

(イラストも筆者)

店舗情報
洋食屋かごしま – 佐賀/洋食 [食べログ]