職業:造形作家 どんな生活をしているか知りたくて、話を聴きに行ってみた

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  • アバター   BY  伊藤恵子 主婦ライター・旅に出たい在宅ワーカー

「職業は?」と尋ねて、「造形作家です」と返されたら、たいていの人は驚くだろう。そして相手に興味を持つだろう。なにを作ってるの? どうしてその道を選んだの? どこで作品を売ってるの? という具合に。あるイベントで造形作家の話を聴く機会があったので、その概要を紹介したい。

ある日、フェイスブックを眺めていた私の目に、ひとつのイベントが飛び込んできた。「Terekoya CUBEvol.15[山で造形作家として暮らす]~モノづくりとナリワイ~」。佐賀市三瀬村のみつせCUBEで開催されるイベントだ。

みつせCUBEは、佐賀市北部の山間地域(三瀬村・富士町・大和町の松梅校区)の地域おこしを行うNPO法人Murark(ムラーク)の拠点。山間地域への移住相談に応じるほか、観光案内やレンタサイクルを行っていて、カフェやイベント会場でもある、らしい。今は佐賀市の平野部に住んでいる私は、山間地域に生まれそこで育った(松梅校区出身)。そのため、前々からみつせCUBEには興味があったものの、それまで訪れたことはなかった。

そのみつせCUBEで「職業:造形作家」の話を聴くことができるという。造形作家? どうやって食べていけるんだろう。はなはだ無礼だが、その点が気になってしかたない。これは確かめに行くしかない!

19時開始のイベントに間に合うよう家を出る。すでに薄暗い。車で山をぐるぐる回りながら登っていく。運転すること40分。田畑と民家、こぢんまりした商店とガソリンスタンドで構成された集落に入る。三瀬小学校そばの平屋建ての中にみつせCUBEはあった。

イベントで司会を務めるMurarkの堀さんが、Terakoya CUBEのことを教えてくれた。山間地域で自分らしく生きている人からじっくり話を聴いてみよう、というイベントらしい。とれたてのズッキーニを抱えた就農したての若者、仕事帰りの女性(職種は不明)など常連らしき人々が次々訪れるなか、ハンチングにジャージという姿で現れた男性。それが「造形作家」だった。錫(すず)合金の鋳物を制作している藤瀬大喜さん、37歳。みつせCUBEと同じ建物の中にJackalope Studio(ジャッカロープ・スタジオ)というアトリエを構えている。三瀬村で生まれ育った。

九州産業大学で鋳金を学んだ藤瀬さん。研究生時代、進路に迷った。会社に入ってモノを作ればラクだな。自由にモノを作らせてくれる会社はないかな。そう考えながら美術館の臨時職員として働いていたある日、展示会で出会った人に「どんなものを作ってるの」と尋ねられた。そこで「こういうの作ってます」と藤瀬さんが出したのは、手元にあったブロンズのカエル。三瀬村に生息しているカエルが昔から好きだった。すると、カエルをテーマにしたグループ展への出展を持ちかけられた。承諾して制作を進めるうちに、意外な展開に。出品予定者が次々と辞退し、グループ展をやるはずが藤瀬さんの個展になってしまった。これが藤瀬さんの出発点となる。

その後は、金属の中では融点が低く、大掛かりな装置が必要ない錫を原料として選択。DECOYと銘打った自らのブランドを立ち上げた。カエルだけでなく犬や猫に人、さらには植物まで錫を原料に生み出している。干支グッズや、季節感のある野菜をかたどった箸置きなどが人気だ。作品はとてもリアルに見えるが、「適度にデフォルメしている」そうだ。温かみのある作風の秘密はそこにあるのかもしれない。

藤瀬さんのもうひとつの主要な仕事は、フィギュア制作。無発泡ポリウレタン樹脂を原料に、カッパや恐竜などを作成している。山でも潟でも生息できるイメージで作った「佐賀のカッパ」は小さい皿や突き出た腹、恐竜を連想させる手足がユニーク。怖くもあるし、ユーモラスで愛らしくもある。

芸術家ぶった気取りは藤瀬さんには微塵も感じられない。「自分の原点は少年ジャンプとゾイド」とあっけらかんと言い切る。大学で鋳金を学んだのは、消去法で選んだ結果に過ぎないとあっさり認めてしまう。仕事を依頼されたら、面白そうだったらやる・つまらなそうだったらやらないという自由人だ。

その一方で、Webでの営業や人との交流など地道なネットワークづくりは欠かさない。司会の堀さんによると、「三瀬と聞いて、ああ、藤瀬さんの住んでるところでしょ? と返答する人に少なからず会う」とのこと。藤瀬さんの“内輪”は数多い。人だけでなく、作品の題材となっているカエルや野菜も、架空の生物・カッパも。

どうやって食べていけるんだろう? その疑問には踏み込みきれず、謎は謎のまま残った。だが藤瀬さんの住む世界の居心地の良さは存分に伝わってきた2時間だった。

藤瀬さんの作品は、minne.com、佐賀一品堂(佐賀市唐人町)、GOFUKU Local&Gift(佐賀市呉服元町)、ギャラリー・モッコ(福岡市天神)で購入できる。また、三瀬村の農家民宿・具座に作品の一部が展示されているので、気になる人はぜひその目で確かめてほしい。