「地味」の味わい 有田町歴史民俗資料館

世界を魅了した、華やかで美しい有田焼。

佐賀県有田町は、1600年頃に磁器原料が発見されて以降、時代の要請にこたえ様々な様式美と器形を考案し、現在も絶えずやきものを生産している。

有田内山地区の外れにある、紅葉に囲まれながらひっそりと佇む有田町歴史民俗資料館。訪れる人が少なく、いつも驚くほど閑散としている。歴史や窯業に興味のない人にとっては、地味で難解な印象を受けるからなのだろう。展示品は、誰もが思い浮かべる古伊万里金襴手(きんらんで)のような絢爛豪華な有田焼ではない。埋蔵文化財を中心に磁器原料や職人が使っていた道具、登り窯や古地図を再現した模型などだ。

けれどこの資料館は、やきものの知識があれば貴重な資料の宝庫である。分かりやすく記述された解説パネルと陶片が展示の半分を占めている。泉山磁石場が発見され、山の谷間を縫うように町が広がり、斜面を使って登り窯を築く。生産のため拡充を繰り返しながら、やきものをひたすら焼いてきた町、有田。有田焼の歴史の裏には、その体制を管理し市場を形成してきた人や無名の職人など、膨大な労力をかけ心血を注いできた多くの人々がいる。陶片に残されたわずかな手の痕跡からは、絶え間ない努力と今では再現できない技術が読みとれ、町と窯業の変遷を教えてくれる。

有田町がたどって来た重厚な歴史を語る、有田焼を読み解くための資料館。短時間で理解するのは難しいかもしれないが、“ここで作られてきたもの”に向きあうと、文献資料では表現できない当時の人々の息づかいや技術にかけた職人の誇りのようなものが体感できる。ずっと同じ場所で常にやきものを焼きつづけ、伝統と文化の積層がこの町を形成し、うつわとなって世界中に伝播していく凄さ。有田焼は、400年という時間とこの地に誇りをもって生きた人々を内包しながら、現代まで継承している工芸なのだと思う。

資料館を鑑賞した後、国内外の美術館に所蔵された作品や販売されている商品を目にすると、有田焼に対してこれまでない感慨がきっと得られるはずだ。ぜひ訪ねてもらいたい資料館である。