人に芸術文化は必要なのか? 第37回創元会 佐賀県支部展

「人間には芸術文化が必要なのだろうか?」

私は芸術を学ぶ学部に属していて、ふと疑問に思うことがある。人間は、芸術文化がなくとも、生きるために必要な行為を繰り返すことで生命を維持できる。人間以外の動物は、芸術文化を持たずとも生きながらえている。この現実を踏まえ、「生きていく上で絶対に欠かせないか?」と問われると、そうでもない気がするのだ。さまざまな展覧会を巡るなかで、偶然その疑問を思い起こさせた展覧会があったので紹介する。

2019年7月、佐賀県立美術館の館内をぶらぶらと歩いていると、館の受付の横に「創元会 佐賀支部展」と達筆な文字で書かれた看板を見つけた。はじめて聞く名前で何の会なのだろうと疑問があったが、とりあえず展覧会会場をのぞきに行った。2階に上がると正面に展覧会受付があり、右手側に会場があった。そこには、大小・表現技法・作者等々まったく異なる、さまざまな絵画作品がずらりと並んでいた。

創元会とは何か。調べたところ、日々生活を送る人々に美術や芸術といった文化を勧め、創作活動を支援する一般社団法人だという。この活動を全国的に行うために日本各地に支部を設けていて、佐賀県にも支部がある。つまり、この展覧会は創元会・佐賀支部に属している方々が描いた絵画作品を展示していたのだ。

会場の中にいた創元会のメンバーの方に話を聞いた。展示作品には職業柄芸術に携わっている人が描いたものもあるが、普段は芸術と無縁な仕事をしている人が描いた作品も多数あるとのこと。入口からすぐ右手にある『どんこ舟』とタイトルがついた絵画は、床屋を営んでいる方が仕事の合間に描いたのだという。穏やかな川の流れやその周りの風景を美しく落ち着いた色で表現し、絵画の真ん中には竿を持ってどんこ舟を操縦する船頭と、その舟に乗る客らを後ろから見つめる視点で描かれている。

なぜさまざまな人々に芸術を勧めるのか、芸術は生活に必要なのかという、かねてからの疑問を交えてスタッフの方に質問した。すると、「衣・食・住の充実した生活を送るには、経済面を重視する生活に偏りがちで、その中でも「食」は毎日を生きていくために欠かせない。しかし芸術文化を通し脳みそにも「食」をさせることが、生活を充実させる上でもっと大切である」と答えてくださった。芸術は人生における自己の豊かな感性を育てるために必要なのに、最近はそれをあまり意識していない人が多く、展覧会や美術館、博物館に足を運ぶ人が少なくなっているともおっしゃっていた。

この展覧会の作品は、著名なアーティストが描いたものでもなければ、決まったテーマに沿って描かれているものでもなかった。しかしこの展覧会は、人々が生活を送るうえで、やはり芸術文化をないがしろにしてはいけないのだという気づきを与え、私が芸術を学ぶ上で日々感じていた疑問にひとつの答えを示してくれた。