クリスチャン・ボルタンスキーの世界をたどる 長崎県美術館で回顧展

「ボルタンスキーの世界へようこそ」と告げているかの様に、彼の顔が映るカーテンの向こうには、暗い部屋の中に鳴り響く心臓の音…。その、彼の心臓音と1つの電球の灯りが、私の心臓までドキドキとさせて共に鳴り響いているようでした。今回、この展示会を機にボルタンスキーを知った私ですが、これまでで一番好きな作品になりました。

入口の先にある作品のモニュメント、自画像、青春時代の記憶、スピリッツを覗くと、彼の子ども時代は辛く悲しい記憶ばかりだと想像できます。そんな中でも今回の作品展は、明るく、温かい部分を表現していると解釈しました。電球ひとつひとつの明るさ、写真の中の人々に陰こそありますが、微笑んでいる写真には温かさを感じることができました。

それから「色」について。全体は、黒でボルタンスキーの父親が暮らしていた地下の部屋のように、暗くて重い感じがします。同時に「青、白、赤」も使われています。彼の出身国、フランス国旗と同じ色ですが、色には「自由、平等、博愛」と言う意味が込められているそうです。この幸せを感じさせる色にも、なにか彼の思いがあるのでしょうか…。

後半にある映像作品「ミステリオス」。静かな海です。映像には波、風、音、そしてクジラの骨が映しだされています。ベンチに座り、静かに目と耳を傾けました。晩年の彼の穏やかさと、同時に寂しさも感じ取りました。

この様に思い残すこと無く、人生をアートで語り尽くす事が出来るのは、感動的な生き方だと思いました。彼の作品をまた見たくなりました。

黄金の海