家族展のススメ

ここ1月で2つの家族展が開催された。
どちらも近しい人だが、展覧会のスタイルは全く性格の違うものだった。

水辺の窯「隆」展は王道の家族展

一つは恩師の宮尾正隆先生とご家族の「水辺の窯「隆(りゅう)」家族展」。芸術一家が、焼き物、七宝、いけばなとジャンルの違う表現が響きあった、王道の家族展だった。高伝寺前村岡屋ギャラリーは、相変わらず落ち着いた雰囲気で、展示に品を感じさせる。

息子の造隆さんは彫刻出身ということもあり、どうしてこの形に行き着いたのかなど、作品づくりの逸話は非常に興味深かった。なにより80歳を超えてなお、先生がまだまだ創作の炎が燃えているのを感じられたことが一番感慨深く、その背中でぼやぼやしている私を諭してくれてるように感じた。そうだ私も制作し続けなくては!

永野家だからナガノ展

そしてもう一つは長崎で開かれたナガノ展。

8月22日、長崎の友人が1日だけの家族展覧会をやるという。美術をやるわけでない家族が展覧会とは珍しいと、仕事前にカブを飛ばして長崎まで行ってきた。ポスターも勢いで作った感が満載、なんかゆるくていい感じ。
 

大浦天主堂と川を挟んだ古い住宅街の一角に、古民家をリノベーションした多目的スペースが出来たのが、この展覧会開催のきっかけ。キャンペーンで1日ワンフロア500円で借りられるのを奥さんが見つけ、何か楽しいことが出来ないかと企画したのが家族展。パワフルな奥さんに半ば押し切られるように、展覧会は走り出したという。そう永野家の展覧会だから「ナガノ展」。
 

1日限りということもあり、2番乗りで着いた10時半にも展示作業は続いていた。1階を奥さんの活動紹介と手作りグッズ、奥にはキッチンもあるのでオリジナルブレンドコーヒーのセルフカフェ。道路に面した1階フロアは、多彩に活動されている奥さんの独壇場。猫のTNR(地域猫)活動の紹介とネコ!ネコ!ネコ!な写真に癒やされる。それにちなんで、近所で22日と29日しか売ってない幻の肉球まんじゅうも。自分のブランドで1品モノのグッズを作ったり、ポスターの顔ハメを作ったりと、楽しいことに夢中な姿勢があふれる展示は、おしゃれな古民家ギャラリーにうってつけ。
 

2階は友人の乗り物コレクション。JRを完乗した根っからの鉄道オタクが、実物の電車のプレートやバスの行き先案内などの秘蔵の品を初公開。普段見かけた案内板などをギャラリーに入れると、その大きさと物量に圧倒される。日本一の鉄オタのコレクションだから、見る人が見れば宝の山に違いない。今回の展覧会に向け、JR全線完全乗車時のものも含め、鉄道やバス、航空機まで、乗ったチケットから旅行記を初めてExcelの表に落としたという。まさに人生の棚卸しだ。
テレビで取材されていた路面電車基地での「電車婚」の新聞記事が懐かしい。
 

家族展なのでお子さんの展示も。シンカリオン大好き!としっかり英才教育されていますね。紙で作った巨大巻き寿司はアートを感じさせる出来、ちなみにネタはサーモンとのこと。下の子もプラレールタワーに囲まれてご満悦。でも親子で新幹線ネタで佐賀をdisるのはやめてほしい。

お互いの趣味を認め合う永野家の二人

表現のゆりかごとしての家族

個々の作品が響きあう正統派の「水辺の窯「隆(りゅう)」家族展」と、家族の活動を紹介する「ナガノ展」。全く性格の違う2つの展示だが、共通して伝わったのは自分らしさを表現する楽しさと、その活動を支えるのは感性を育む場としての家族の存在だということ。自己表現は感性や趣味性を剥き出しにする行為だけに、生身のそれはとても傷つきやすいもの。そのような表現をゆりかごのように包み守る家族があることで、安心して本来の自分自身がさらけ出せるのだろう。

また「ナガノ展」はアートという形にせずとも活動を「展覧会」形式にすることで、自分の来し方を棚卸しでき、個人の「好き」を外部に説明できるよう分類すること、それ自体が表現だということを見せてくれた。永野さんの膨大なコレクションも華麗な鉄道遍歴も、今回の展覧会がなければ日の目を見ることなく永遠に死蔵されていただけだったかもしれない。近年の古民家リノベーションブームで、展示スペースを借りるハードルが下がってきている。これを機にこのような家族展が増えれば、表現を楽しむ人の裾野が広がるに違いない。そんな人々の広報を少しでもこの「ぽたり」がお手伝いできれば幸いだ。

まずは、このワクワクが消えないうちに、私も「コイシ展」を企画してみたい。

顔ハメてみた。誂えたみたいにぴったり!