「今、福岡で最も精力的に活動している作家の一人」といわれる牛島智子さん。長く関東を拠点とした後に地元の福岡県八女市に戻り、八女の地に根を張った創作を続けている。和紙や櫨ろうそくといった地元の産業、家事など身近な題材をモチーフにした作品は見る者に大きなインパクトを与える。
関東・九州を中心に、開催または参加した展示は多数。2022年は福岡県立美術館で回顧展「牛島智子 2重らせんはからまない」が開催された。
1980年頃から展示を始めた牛島さんに魅了された1980年生まれの筆者が牛島さんを知る人を取材して、牛島作品の魅力は何か/心に響く源泉は何かを探っていく。
今回は、羽犬塚駅そばのアートホテルMEIJIKANを経営し、同ホテルを舞台に「羽犬塚プロジェクト」を展開する徳永幸治さんにお話をうかがった。
牛島さんとの出会いは?
徳永さん:智子さんの提案・企画により、MEIJIKAN2階のMEIJIKAN GALLERY CHIGGOで「ねホリはホリ drawing」を開催したことです。これまで4回実施し、今後も秋を除いて年3回、定期的に開催していきます。秋に開催しないのは、智子さんが自宅アトリエ「クニタケ8pin」でオープンアトリエを行うためです。
「ねホリはホリ drawing 」ゲスト:渡邊瑠璃さん 2021年12月10日~12日
「ねホリはホリ drawing 2022 ネン はる 」ゲスト:ゴトウ千香子さん 2022年4月9日・10日
「ねホリはホリ drawing 2022 ネン なつ ―紙と本」ゲスト:内山けい子さん 2022年8月10日・11日
「ねホリはホリ drawing 2022 ネン ふゆ ―金属と平面と絵画」ゲスト:重松希さん 2023年2月5日・6日
「ねホリはホリ drawing」の見どころは?
徳永さん:毎回、智子さんが気になるアーティストをゲストとして招き、短期レジデンスでトークとドローイング・ワークショップを行います。ストイックに描くというより、智子さんとゲストが会話したり、来場者と会話したり、楽しみながら描いています。そういう時間が智子さんにとっても貴重なものになっている様子です。来場者にとっても、智子さんとゲスト、異なる個性の「組み合わせの妙」を味わえるイベントとなっています。
徳永さんが考える牛島さんの魅力は?
徳永さん:智子さんの扱っているテーマや素材の「八女の地に足がついている」点は大きな魅力だと思います。アーティストの本質的な部分はしっかり持っておられて、かつ、自由度が非常に高い。そして、説教じみた解説は一切ないのに、現代の風潮に対するアンチテーゼが込められているように感じられます。
例えば「ねホリはホリ drawing 2022 ネン なつ ―紙と本」は「紙」がテーマでした。智子さんは素材として和紙をよく使用されます。自分でコンニャク糊引きをして厚くしたり大きくしたり自分に使いやすい和紙に仕立てておられます。近年は、資源を大切にしようという流れと相まって、ペーパーレスが進歩的であるかのような言い方をされますが、「紙が大切なら、逆に使わなきゃだめじゃない?」という疑問が私にはあります。その疑問に応えるような内容でした。
また、智子さんは2021年11月に個展「炭素ダンスでエウレカ」をEUREKAさん(福岡市中央区)で開催されていますが、多くの現代人にとって「炭素」はネガティブなイメージが強いようです。でも、炭素がなくては、有機体は成り立たないんですよね。「炭素=悪者」という思い込みには、分断に近いものを感じます。智子さんはろうそくを重要なテーマのひとつとしているだけに、燃焼と切り離せない炭素の大切さは熟知しておられます。だからこその、「炭素ダンス」という個展名ですね。
智子さんの作品は風潮へのアンチテーゼを声高に叫んでいるわけではないけれど、さりげなくテーマに据えてある。そして作品として成り立たせているのはさすがと思います。
羽犬塚プロジェクトは、アートホテル・MEIJIKANを拠点に展開されるアートプロジェクトである。
MEIJIKANは羽犬塚駅前のビジネスホテルを2016年全館リノベーションして2017年にオープンした。1階のBOOKS&CAFE HAINUZUKA TABLEでは地元産食材を使用したおいしい食事を提供している。カフェの中に本棚が並び、九州のアーティストや九州でつくられた本を手に取ることができる。2階はMEIJIKAN GALLERY CHIGGOで、3・4階は客室となっている。
九州芸文館のアーティスト・イン・レジデンス企画ではMEIJIKANが滞在先として利用されており、かつては韓国やインドネシアなど国外のアーティストも滞在した。九州芸文館の他のイベントにおいてもMEIJIKANがサテライト会場となることがある。
4階の部屋はゆかりのアーティスト、田中千智さん・古賀義浩さん・瀬戸口朗子さん・平川渚さんがそれぞれ空間をデザインした。平川さんは鹿児島県霧島アートの森で『個展 かなた/あなたとの会話』を終えたばかり、田中さんは『田中千智展 地平線と道』が福岡市美術館で開催中(2023年2月現在)など、活躍が目覚ましい。
今後もアーティストを育て、アートを発信する場として注目される。