マリメッコのデザイナーは画家だった 映画『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』

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  • アバター画像   BY  杉本 達應 プログラムが生みだすビジュアルをこよなく愛する、potariの旗振り人。

北欧デザインといえば、あざやかなファブリックデザインのマリメッコを思い浮かべる人が多いでしょう。なかでも、ケシの花がモチーフの「ウニッコ」はマリメッコの代表的なデザインです。このパターンの高い知名度に比べ、この柄をデザインした人物のことは意外と知られていないのではないでしょうか。私も知りませんでした。

映画『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』は、マリメッコの数々の柄を描いたデザイナー、マイヤ・イソラの人生を描いています。劇場では見逃しましたが、書籍『マイヤ・イソラと旅する手帖』に配信視聴チケットがついていて、自宅で映画を見ることができました。

kinologue,2023,『マイヤ・イソラと旅する手帖: マリメッコの伝説的デザイナー マイヤ・イソラの創作の旅』kinologue books.[ISBN: 9784991174049]

映画は、マイヤ・イソラ本人の映像はほとんどなく、日記や手紙の朗読、娘のクリスティーナの回想を中心に構成されています。ナレーションにあわせて、当時の記録映像や彼女の作品などが映ります。彼女は、フィンランドの農家に生まれますが、芸術大学の学生時代から、ヨーロッパ各地や北アフリカ、アメリカなど世界を旅します。そのときどきで恋に落ちては結婚を繰り返すという、情熱的な人物だったようです。旅と恋愛が創作の源となっていたんですね。

マイヤ・イソラは、マリメッコの代表的なパターンとなったウニッコをデザインします。しかし、マリメッコは創業当初から花柄を禁止していたのだそうです。マイヤ・イソラは、その方針を転換させてしまったのですから、並々ならぬ決意があったことがうかがえます。マリメッコ創業者のアルミ・ラティアとは、経営者とデザイナーとしてよきパートナーだったようですが、社内の創作環境に不満をつのらせたマイヤ・イソラはマリメッコを退社し、フリーランスとして契約を結び直します。

マイヤ・イソラは、画家として多数の絵画作品も残しています。それらの表現のバリエーションは幅広く、マリメッコのデザイナーに収まらない多様な創作活動を見ることができました。

映画『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』

https://maija-isola.kinologue.com/

ところで、フィンランドの芸術家といえば、ムーミンの原作者・トーベ・ヤンソンの半生を描いた映画『トーベ』も思い出しました。こちらは役者が演じる再現ドラマが中心でした。実はトーベ・ヤンソンも画家として活動していて、ムーミンの原作者だけではない側面をもっていました。恋多き女性だったこともマイヤ・イソラと共通しています。

マイヤ・イソラの映画のなかで、トーベ・ヤンソンと出会ったという一節がありました。その詳細は触れられていませんでしたが、フィンランド出身で活躍する女性芸術家として、たがいに響きあうものがあったのかもしれません。

映画『トーベ』

https://klockworx-v.com/tove/

「孤独というものを私は決して忘れない」──マイヤ・イソラの日記や手紙には、印象深い言葉がたくさん登場します。飾らない正直な気持ちが綴られていますが、彼女のするどい観察眼と美的感覚、深い思索も伝わってきました。この映画を見ていると、本人の人生を内側から追体験するような不思議な気持ちにさせてくれます。とくに創作にかかわる人にとっては、仕事の仕方や人生の送り方を考えさせてくれるはずです。ネット配信で見れるようですので、ぜひご覧になってみてください。