夏の千葉で、クワクボリョウタとジョセフ・アルバースを観る

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  • アバター画像   BY  杉本 達應 プログラムが生みだすビジュアルをこよなく愛する、potariの旗振り人。

残暑がつづいていますね。昨年の夏は、水戸で美術展をハシゴしました。今年の夏は、日帰りで千葉に行きました。

クワクボリョウタと千葉を知る

はじめに向かったのは、千葉県立美術館で開催されていた「クワクボリョウタ《コレクションネット》」です。

クワクボリョウタ《LOST#19 しおさいのくに》(美術館サイトより)

http://www2.chiba-muse.or.jp/www/ART/contents/1687068824808/index.html

千葉県誕生150周年記念事業だそうで、前半は、房総の海を描いた多数の作品が展示されていました。その後に、クワクボリョウタの展示があります。

展示室には、千葉をテーマに企画されたいくつかの作品が展示されていました。全体として、「千葉をテーマに作品を作る」というお題に、作家がどのように向きあったのかが記録されています。料理にたとえると、素材(千葉)だけが決まっていて、それでなにを作るかは調理人にまかされているような状態ですね。自分だったら、なにを作ろうかとつい考えてしまいます。

各作品は、千葉県のマスコットキャラクター「チーバくん」と作家の対話のパネルではじまります。チーバくんを起用したのは、おそらく気楽に見てほしいという作家または美術館のメッセージでしょうか。ただ、真っ赤なチーバくんのキャラクターは、会場の雰囲気からは浮いているように感じました。

落花生、「なのはな体操」、千葉駅、伊能忠敬などのご当地物をモチーフに、いろいろな作品が提案されていて、おもいがけず千葉のことを知ることができる機会になりました。どの作品も、地域のリサーチから試作に向かうプロセスが明らかにされています。参考にした文献なども一緒に展示されていました。ただ詳細までは記載されていないものもあったので、図録の完成を待ちたいとおもいます。

最後の展示室にあったのは、クワクボリョウタが房総の海をテーマにした新作のインスタレーション《LOST#19 しおさいのくに》です。模型列車が光を運び、周囲のオブジェクトのダイナミックな影絵をたのしむシリーズ作品のひとつです。部屋には、ちいさなこどもとその母親がいて、こどもが母親にいろいろ質問していたのがほほえましかったです。

千葉県立美術館は1970年代に開館した美術館で、展示室はすべてひとつのフロアでつながっていて、段差がまったくありません。外壁が煉瓦調でロビーが薄暗いのは、同時期に開館した全国の公立美術館と共通する雰囲気ですね。アマチュアの写真やデザインの展覧会もやっていました。出品者らしき高校生の姿もちらほら。県民の創作意欲が高いように感じました。

ジョセフ・アルバースの授業を受ける

つぎに向かったのは、DIC川村記念美術館で開催されている「ジョセフ・アルバースの授業:色と素材の実験室」です。

チラシ(美術館サイトより)

https://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition/

展示は、アルバースの活動の遍歴を追うように時系列で組み立てられています。

アルバースは、ドイツのデザインスクール、バウハウスの卒業生であり、のちに教師として基礎演習を担当します。ガラス画や家具、食器などのデザインをてがけます。その後、アメリカに移住し、ブラックマウンテン・カレッジで指導します。さらに、イェール大学に移ってからは、色彩の研究にうちこみます。この時期、アルバースは、シリーズ絵画《正方形讃歌》を描いています。正方形のキャンバスに入れ子になった色とりどりの正方形が描かれた抽象画です。となりあう色と色の相互作用についてとくに関心をもっていたようです。上映されていた制作作風景の映像によると、絵具チューブの色をそのまま使い、ペインティングナイフできれいに塗り分けています。最後に、抽象的な造形による版画集《フォーミュレーション:アーティクレーション》が展示されていました。

この展覧会には、ワークショップ・ルームがあり、アルバースの色彩の授業を体験できます。タブレットで授業課題が紹介されれています。YouTubeでも公開されているので、自宅でもできます。

課題1 色のマジック:1つの色が2つに見える
課題2 3色の世界:同じ色から違う世界が生まれる
課題3 透明のトリック:透けていないのに透けて見える
課題4 ひだ折りの練習:しなやかな紙が立ち上がる

大量の色紙と文房具が準備されていて、自由に組み合わせることができました。高級な紙がたくさん積み上がっていて気分が上がります。できあがった作品は壁に貼っていくことができます。その作品レベルの高いこと! きっとプロやセミプロの仕業でしょう。

こうした基本的な色を組み合わせる実験は、いまではパソコンを使えば簡単に作れます。それでもアルバースの時代のように、色紙や絵具を使って、手を動かしながらじっくり取り組むと、さまざなインスピレーションが湧きあがりました。便利なツールにたよって手早く作ることで、かえって創造性が失われてしまうこともあることに気づかされます。

DIC川村記念美術館は、周囲の自然も含めて美しい美術館です。常設展示では、20世紀の抽象美術が充実しています。マーク・ロスコ、ジュールズ・オリツキー、フランク・ステラなどの巨大な作品が、広い展示室に鎮座しています。ジョセフ・アルバース展は、2023年11月5日まで開催中です。訪れるさいには、じっくり時間をとられることをおすすめします。