佐賀県立美術館2階の画廊で、「吉田勇輔 油彩画展」が開催されている。身近なものに画題をとった精密描写が、強い印象を残す展覧会だ。吉田氏は唐津市出身、久留米市在住。自然豊かな環境で制作を続け、教職を定年退職した今は展示にも力を入れている。
上の写真の作品、白いキャンバスに影を落としつつイーゼルにからむツル植物は、葛(くず)。「伸びるのがはやくて嫌われがちな植物。でも、その根からは葛湯(くずゆ)の原料がとれるんですよ」。画家との会話を楽しみながら鑑賞すると、味わいはより深くなる。
水の描写や光の描写の迫真ぶりにぜひ注目してほしい。
清流を描いた『瀬』(下の写真・左)は鑑賞者に水の音や澄んだ空気を味わわせてくれる。『春待つ樹』(右)は、実が落ちた後、農作業の邪魔にならぬよう枝を伐採された栗の木を描いた。「ねじけた樹の姿が自分自身と重なった」と語る。しかし、枝を切られても尚、生命力を示す幹の姿は、見る者に力を与えてくれるだろう。
食用に適さない野ぶどうは、実の色が多彩になる季節を待って描く。隣に並ぶカラスウリの実。質感や重量の違いも感じとれる描写だ。
「かつては人の営みがあって、それが失われた様子にも関心をひかれる」と、廃屋を題材に選ぶこともある吉田氏。崩壊した家屋を描いた『風の痕』のインパクトは大きい。日常の「当たり前」に揺さぶりをかけられるようだ。
佐賀県立美術館での展示終了後も、県内外で個展を開催する。まだ公表していないが、これまでの画業の集大成と位置づける企画も準備している。ちなみに、記事冒頭の作品のタイトルは『画業』ならぬ『画・業』。「業」は「ごう」と読ませ、描くという行為から逃れられない自分自身を示した。「描くことを捨てられるものなら捨てたい。でも描かずにはいられない。描くのも描かないのも地獄です」と言いながらも快活に笑う姿に、画業への自負と今後への覚悟がにじむ。まずは佐賀県立美術館2階を訪れて、あなたの感性に響く作品、あなたの「お気に入り」に出会ってほしい。