取材をする前の私は「有田焼ってどんなもの?」と聞かれても、「佐賀の有名な焼き物」としか答えられなかったと思う。陶器市も行ったことのなかった私が、二つの窯元を取材して一番思ったことは、もっと有田焼の素晴らしさをみんなにも知ってもらいたいということだった。
最初に訪れたのは、伝作窯。有田駅から車で10分ほどの静かな山あいの中にあり、色づき始めた紅葉がとてもきれいだった。
伝作窯は、それまで不可能と言われていた磁器と陶器を一つに焼き合わせることに成功した異端の有田焼である。磁器と陶器では土の成分が全く異なる上、焼き上がりの温度も大きく異なる。磁器はガラスのように滑らかで薄く硬いのが特徴だが、陶器は表面に凹凸があり素朴で暖かな風合いがある。伝作窯は2~3年かけて研究を重ね、この性質が全く異なる両者の焼きあわせを実現した。伝作窯の社長である横田博文さんによると、きっかけはホテルのレストランからの発注だったという。料理をのせる部分は滑らかな性質の磁器で、まわりは暖かみのある陶器でできた料理皿を作れないかという要望があり、それに応えるために研究を始めた。
暖かみの中にシャープさがあり、それぞれの良さを引き立てあっている印象を受ける。普通に磁器や陶器を作るよりも工程が増えるため、時間も労働力もかかる。それでも、手間暇を惜しまず丁寧に作られたその作品は職人さんの真心を感じた。
陶磁器だけでなく、緻密な絵付けの技術も印象的だった。
素晴らしい焼き物がたくさんあるなかで、一際目を引いたのがこの桜だった。桜の花を一個描くのには10分ほどかかるらしい。高い技術だけでなく、職人さんの作品への強い想いにとても感動した。
他にも手の届きやすいかわいい商品がたくさんあって、見たら欲しくなるようなものばかりだった。おちょこやマグカップ、お茶碗などはちょっとしたプレゼントにも喜ばれるのではないかと思う。ぜひ足を運んでみてじっくりと伝作窯の素晴らしさを感じてほしい。
次にお昼ご飯を食べるために「西洋食堂 信-NOBU-」へ向かった。
このお店の名物は「レモンステーキ」。
アツアツの鉄板いっぱいにのったステーキとレモンの香りが食欲をそそる。
お肉が柔らかく、レモンとの相性も抜群においしかった。
有田に行った際は、ぜひ食べてみて欲しい。
最後に向かったのは、幸楽窯。有田駅から車で6分ほどのところにある。
幸楽窯のResidenceコーディネーターであるピメンタさんに話を聞くことができた。
ピメンタさんはブラジル人で、もともとはデザインの先生。ブラジルには自分の窯元があったそうで、焼き物にもとても詳しい。中国の景徳鎮で5年間コーディネーターとして活動された後、2013年に有田を訪れ、有田と世界をつなぐという目的のもと幸楽釜のArtist in Residenceコーディネーターとして就任。日本語もぺらぺらで、さらに中国語も話せるというからびっくり。有田の通訳としても活躍されているそう。
幸楽窯の工場内を見学させてもらった。工場に足を踏み入れてみるとまずその広さに驚いた。バブル最盛期には300人以上の従業員がいたそう。
ピエンタさんが器がどうやってできていくのかを丁寧に教えてくれた。その日は幸楽窯が休みで、実際に職人さんが作業をしているところは見ることができなかったが、実際に並べられている器をみて、ひとつひとつが手間暇をかけて作られていることがよくわかった。
ピメンタさんの解説つきで実際に作業しているところを見学できる「工場ツアー」も用意されているので、機会があれば参加してみてほしい。
ピメンタさんの斬新なアイデアで幸楽窯には多くの外国人のお客さんが訪れる。その中でも特に人気なのが「トレジャーハンティング」。倉庫の中に眠っている数多くの器の中から、自分だけの器を探す大人のためのトレジャーハンティング。それはまさに宝探し!制限時間は最大90分で、バスケットの上部をはみ出さない程度まで器は入れ放題。5000円と10000円のコースが用意されている。
実際にわたしもトレジャーハンティングを体験してみた。時間を忘れるほど器探しに没頭してしまって、子供の頃に戻ったようにワクワクした。自分だけのお気に入りの器を見つけたときは、本当にうれしくてまさに宝探しだった。
トレジャーハンティングが始まって5年目になるが、最初のほうのお客さんは外国人の方ばかりで、日本人はほとんどいなかった。なぜ、住む場所が遠く離れた外国人の間で情報が広まったのか。それはやはりSNSの力が大きかったとピメンタさんは言う。FacebookやInstagramなどで誰かが投稿したトレジャーハンティングの情報がだんだんと広まって、多くの外国人の間で知られるようになった。改めてSNSの与える影響力は大きいのだなと思った。
上の写真の器は、インスタグラムにハッシュタグをつけて投稿するとプレゼントでもらうことができる。ぜひインスタグラムで拡散して器をゲットしてみてほしい。
今回有田を取材してみて、今まで知らなかった「有田焼」の素晴らしさを知ることができて本当に良かった。この記事をきっかけに有田焼について少しでも興味を持ってくれる人がいたら嬉しいなと思う。