茶の木屋台が佐賀を行く[後編] 「side by side」本番編

オレクトロニカと地域サポーターによる「side by side」プロジェクト本番の模様をレポート。企画の準備段階の様子を記録した[前編]からのつづき。

2018年12月15日、土曜日。いよいよ茶の木屋台「side by side」初日。午前11時40分、2台の屋台は関連展示の会場である本庄ビルから656広場(むつごろう広場)に向けて出発した。オレクトロニカ両名が1台ずつ屋台をひき、記録チームやNHKの取材班も同行。お茶の木を揺らしながら、屋台は県庁前通りを東に。車から注目を浴び、すれ違う人に「これは何ねー?」と聞かれる。「656広場でお茶のイベントがありまーす」と告知しながらの行進だ。佐賀県庁の前を通り過ぎ、佐賀県立図書館脇の「肥前さが幕末維新博」広場でお披露目と告知。15分ほど滞在した後、656広場へたどり着いた。おだやかな日差しで気持ちのいい、1時間ほどの道のりだった。

茶の木屋台は杉の木でできている。細部まで丁寧な作りで、お茶の木の緑で彩られてた屋台は人目をひく。お茶の木には白い花が咲いていた。初めて見るお茶の花は、素朴で可憐だった。最初に屋台と聞いたとき、「アートなの?」と疑問に思った。あまりにも日常的で、学生が文化祭のノリで作る屋台のイメージが離れない。しかし飲みの〆に立ち寄る屋台といえば、確かにコミュニケーションの巣窟だ。「アートって何だろう?」と思いつつ、初日が始まった。

オレクトロニカ号は、準備が整うとさっそく白山商店街へ。サポーターたちが楽器を鳴らし、歌いながら、にぎやかに歩いていく。中央大通り側の商店街入口、ハローワークの近くに停まってお茶をふるまった。サポーターが自分たちで作ったチラシを配る。アーケードを歩く人が、オレクトロニカと会話しながらお茶を飲んでいく。お茶を飲んだ人のなかには、NHKのインタビューを受ける人も。興味津々ながらも、迷った末に走り去った自転車乗りの人もいた。10人位にお茶をふるまい、2時間ほどしてふたたび656広場へ戻った。

一方、サポーター号は656広場で、柚子、レモングラス、スパイスなどのブレンド茶をふるまう。「青春」と名づけられた汗の味がするワラスボ入りお茶をはじめ、10種類程のメニューがある。屋台の横にテーブルを置き、ブレンド茶を提供した。サポーター号では、時間毎に変わり種を出す。甘いシナモンの香りを裏切る、火を噴くような辛さのスパイスティ。水色をしているが、レモンを入れると鮮やかな紫色に変化するバタフライティ。しいたけブレンド茶に炒り玄米や海苔トッピングをすると、「お茶漬けの味やね~」と言いながらお茶を楽しんでもらった。

今回のイベントでは、近所でカフェを運営するハコウマキッチンさんが、チュロスに茶の葉を練りこんだコラボ商品「チャロス」を初日限定で販売した。その場で揚げたてをいただける。きれいな緑茶色で、外はカリッと中はふんわり。ホワイトチョコのソースをつけてアツアツのうちに食べる。チョコソースの甘みとマッチしておいしい。

場を盛り上げるために、音楽教室を主宰しているサポーターが様々な楽器を用意した。おもちゃのピアノやアコーディオンに、あまり見たことのない楽器たち。みんなが思い思いの音をだす。私も恐る恐る楽器らしきホースを回してみた。不思議な音が鳴り、たちまち楽しくなる。子どもたちが集まって、いっせいに楽器を鳴らすと場が一気に華やいだ。音楽の力はすごい。その後もいろんな人が屋台を訪れる。退屈する間もなく初日が終わった。

2日目の日曜日は、あいにくの雨。土砂降りの予報のわりには小雨で、人出はぼちぼち。屋根のある656広場で、オレクトロニカ号とサポーター号がお茶をふるまった。初日の反省で、スタッフの白いジャンパーと名札が目立ちすぎるため外すことに。屋台の外でお茶を提供していたサポーター号は、オレクトロニカの意向で屋台の中からお茶を出すようにした。

ゆっくりと過ぎる時間のなか、のんびりお茶を楽しむ人びと。「肥前さが幕末維新博」の来場者や、近くのオランダハウスの人たちもやって来た。お客さんの年齢層は比較的高い。近所に住む年配の女性に「火を噴くようなお茶がありますよ」とお誘いしたところ、飲みたいと返ってきたのでスパイスティをふるまった。好奇心に年齢は関係ない。「体があったまるわよね! ポカポカしてきた」とよろこばれた。

オレクトロニカがお茶の葉で染めたエプロンも話題に。シックな色合いで、たたむとバッグになる。お客さんたちから評判で、もしかしたら商品化もありそうだ。

終盤になるとサポーターの友人知人が集まり、にぎやかに「side by side」は終了した。2日間で約80人が参加したこのイベントで、オレクトロニカが目論んだ「衝動」は起こせただろうか?

イベントが終わっても、アートが何かはよく分からない。分かったことは、文化祭のノリで作る屋台とはクオリティが違うということだ。屋台を作る技量や、物を選ぶ目、隅々までの気配りでできた洗練された場が、人の心を動かす。

私も一度オレクトロニカのお茶を体験したかったので、2日目のお客さんが途絶えたときに「一般のお客さんだと思ってお茶をください」とお願いした。「これは嬉野の茶畑から……」とオレクトロニカの加藤さんが話しながら、湯飲みに焙った茶葉を2枚入れ、お湯を注ぐ。ほぼ透明なお湯。ゆっくりお茶を探しながら味わう。雑なモノのない味や香りを感じる。確かにほうじ茶だ。お茶菓子は、小指くらいの大きさの白いボウロが2本。このお茶によく似合う素朴な味。水も茶葉も道具も、気を配ってできた洗練された場で味わうお茶は、私をクリアな気持ちにさせてくれた。

今も時折、オレクトロニカのお茶の時間を思い出す。あの時のクリアな気持ちが私をリセットし正しい位置に戻してくれる気がする。まるでオレクトロニカの《直立の人間》のように、行為を除いた直立の姿勢が次の動きのきっかけとなる。これが「衝動」なのかもしれない。屋台に載る生きたお茶の木には、春になると新芽が芽吹くだろう。路上にあらわれる新緑の茶の木屋台にまた出会ってみたい。