近所に謎のビルがある。
3階建てで劇場のような外観。3階の窓に石膏の胸像が並び、いたるところに浮世絵、ポスター、絵画が飾られている。好奇心に駆られて入り口に近づくと、「デジタルアート」「ダヴィンチ」「スフマート研究所」の文字が読める。しかし、何なのか見当がつかない。思いきって中に入ると、想像以上の世界がひろがっていた。
このビルの正体は、福岡県大川市にある「まるたつ家具旧館」。家具の修復と配送のかたわら、デジタルアートを展示している(現在は無料だが、今後一部有料になる予定)。「まるたつアート」と名づけられた作品は、プリンターで出力したA4サイズの紙を貼りあわせ、有名絵画を再現する。寄せ木や面の接着、アンティーク塗装といった家具修復の技術を応用して、目視では確認できない継ぎ目と、あたかも油絵の様な質感、頑丈な強度を持つ。絵画と看板の中間にある制作物で、商標登録されている。
著作権が切れたイメージをプリントするため、自然とレトロなものが多い。店内の1階には、あふれるほど大量の様々なジャンルのサンプルが並ぶ。通路の天井から吊るされた短冊状の名言コピーの群れ、三島由紀夫の写真。壁一面にびっしりと縮小版の昭和初期の映画ポスター、すだれの陰には春画の浮世絵。混沌という形容詞がふさわしい。80年代の雑誌『宝島』のような、サブカルチャーを思い出す。
2階に向かう映画のセットのような大きな階段に、ダヴィンチやミケランジェロのルネサンス絵画がいくつも展示されている。階段を上った先には、実寸大の巨大な《最後の晩餐》が飾られたフリースペースがある。また、1階の別入口から入場するお化け屋敷もあり、細い階段を上りながら恐怖を題材にした掛軸や絵画を鑑賞できる。上りつくと最後にナチスの写真があり、「一番怖いのは人間」というオチは何ともいえない。
ここのオーナーは仕事が終わった後、30年以上の月日を重ね制作を続けている。クラフトマンの技と情熱が詰まった膨大な「まるたつアート」。大川に訪れた際、のぞいてみてはいかがだろうか。