オレクトロニカと有田で学ぶ 「オレクトロニカアートセンター 路上活動実験室」準備編

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  • BY  大元茜

    感受性を磨きたい 感性の深層に迫りたい アートで豊かな日常を

佐賀県有田町の旧しらかわ保育園。2016年に休園となりましたが、この11月、4日間限定で“アートの学校”が開かれます。その名も「オレクトロニカアートセンター 路上活動実験室」。

大分県竹田市を拠点に活動している美術ユニット、オレクトロニカ(加藤亮+児玉順平)の作品展示室のほか、カフェ室、図書室、遊戯室などを設け、路上で展開される表現活動についてのあれこれを見て、知って、楽しんでもらうものです。

企画されたイベントは、オレクトロニカの代表作である木彫の人形づくりから始まり、オレクトロニカと佐賀大学芸術地域デザイン学部の花田准教授のトークや、会場の空間を活用したインスタレーションなどのワークショップを経て、最終日は参加者が路上表現を行う、という一連のアート活動を学ぶことができます。会場全体がオレクトロニカの作品となっており、作品を見てただ「楽しかった」というだけでなく、何か持って帰ることができるような文化施設にしたいという思いから、「学校」としています。

この展示は、SMAART(佐賀モバイル・アカデミー・オブ・アート)における実践プログラムの一環として行われるものです。SMAARTは、佐賀大学芸術地域デザイン学部主催の3年間にわたって佐賀および周辺地域のアートマネジメント人材育成を目指すプロジェクトで、2019年度は「プラクティス(実践)編」として、これまでの成果を踏まえつつ、招聘(しょうへい)アーティスト・受講生・地域の人々とともにアートプロジェクトの実践に取り組んでいます。

その一つが、2018年度より取り組んでいる売茶翁アートカフェプロジェクトです。佐賀県ゆかりの人物で江戸期に国内を放浪しながら「茶」を通じて人々に禅の教えを説いた禅僧「売茶翁」の史実をヒントに、アートを通じて人々が交流する場をつくります。

「路上」は、売茶翁が茶をふるまい、禅を説いた場所であり、オレクトロニカの活動の原点でもあります。2018年度は、オレクトロニカとともに、佐賀市の路上にて移動式アートカフェ「茶の木屋台」を中心とするレジデンスプロジェクト「side by side」を展開しました。今年は場所を有田町に移し、より本格的なアートマネジメントを実践します。

2019年8月24日、最初のミーティングが行われました。アーティスト・イン・レジデンスプログラムであるため、オレクトロニカは制作に集中することが前提です。受講生は、アーティストの表現活動を支えるサポーターとして、3つのグループに分かれて活動をします。受講生は、学生や社会人、年代や背景なども様々です。

広報グループは、このアートプロジェクトについての情報発信を行い、さらに会場に足を運んでいない人にも知ってもらえるような工夫をします。アートカフェグループは、オレクトロニカが制作する作品としてのアートカフェの運営を行います。会場グループは、場を整える役割です。オレクトロニカの作品の搬入・設営・撤収や、各部屋のキャプションパネル・看板などの作成を担います。

最初は手探りでしたが、ミーティングの回数を重ねるごとに、具体的なイメージができ、固まっていきました。会場は3年以上前から使用されていない場所であり、電気や火気などについてはシビアな制約がある中でやっていかなければなりません。

広報グループは、InstagramやFacebookなどのSNSによるリアルタイムの情報発信のほか、アーカイヴの要素を持つ「note」(作り手とフォロワーをつなぐWEBサービス)を使い、プロジェクトを記録していきます。

アートカフェグループは、限られた予算や条件で、提供するものや方法について案を出し合い、メニュー表をつくります。昨年のオレクトロニカの作品である2台の茶の木屋台も、嬉野市の佐賀県茶業試験場で掘り起こされた茶の木を載せて再び登場し、来場者がくつろぎつつ学ぶことのできる、コミュニケーションの場をつくります。

会場グループは、オレクトロニカの作品に合わせて会場をつくります。また会場までの道しるべや、会場案内の設置も行います。

来場者が持ち帰るための会場図や趣旨を記載したハンドアウトの制作も、サポーターが行います。また、来場者数や、どのくらいの規模でどのくらい行程や日数、人数を要したかなど、今後の活動のため記録は重要です。

花田准教授に、なぜ今回「学校」をコンセプトにし、「路上」をテーマにしたのか、改めて尋ねました。「昨年の佐賀市内の路上でのアートカフェは、初めての試みだったこともありイベント色が強かった。今年は、屋内で改めて『路上』について振り返り、『路上』に出る前のステップとしたい。今後、受講生がなんらかの文化活動を行うにあたり、『路上』というキーワードを蓄えとして頭の片隅に置き、選択肢の一つになると良い。『実験室』という言葉には、実践前の準備体操、慣らしの意味も込められており、この場でアート体験を深め、マネジメントを学んでほしい。」と語られました。

2019年度は、SMAARTによるプロジェクトの最終年度です。来年度以降は、各々が自分たちでアートマネジメントを実践していくこととなります。「路上」は受講生にとって、言わば「自主的な活動」。受講生は、ここでアートマネジメントの経験を積み、SMAARTという学校から、外へと出ていくための準備なのです。

ミーティングの場以外でも、話し合いや作業をし、準備をしてきました。それでも直前まで確定しないこともあります。さらに当日も、何が起きるかわかりません。「アートプロジェクトは何もないところから始まり、つくっていく過程こそが醍醐味である」と、花田准教授は述べられます。最後まで何が起きるかわからないのがアートプロジェクトであり、想定外のことが起きた時こそ、それをどう乗り越えるか、そこに関わる人々が試されるのです。いかに知恵を絞り、動けるか。そこから生まれる化学反応やハレーションは、さらに思いがけない展開をもたらします。アーティストやサポーター、来場者、その場にいなかった人々へさえも、このアートプロジェクトからどんな化学反応が起きるのでしょうか。

「オレクトロニカアートセンター」において、アーティストとともに、来場者はアート体験をし、サポーターとしての受講生はアートマネジメントを経験する。誰にとっても大切な学びの場になることでしょう。

(写真:副島大輔)