YCAM「ネットにくらす、わたしのひみつ」参加レポート

2022年1月22日(土)に、山口情報芸術センター[YCAM(ワイカム)]が開催するオンラインワークショップ「ネットにくらす、わたしのひみつ」(全12回)に参加しました。本ワークショップは、SNSをモチーフとした活動を通して、参加者が情報の発信者と受信者の両方の立場を体験し それについて話し合い議論することで、それぞれの立場の特性を再考していくことを目的としています。(イベント概要:https://www.ycam.jp/events/2021/secrets-of-me-internet/
オンラインツールzoomを使って開催され、音声やチャットを利用して他の参加者やスタッフの方とコミュニケーションをとります。「自分とインターネットとの付き合い方を考えてみる」をテーマに、まずは普段インターネットをどのように使っているか、使っている時間・用途など含め(例:SNS、仕事で使う、調べ物やショッピング など )それぞれ自己紹介と合わせて共有したのち、2つのアクティビティが行われました。

インターネットイメージかるた
1つめのワークショップは、参加者それぞれが「インターネット」に対してどのようなイメージを持っているのかを共有する「インターネットイメージかるた」です。

<インターネットイメージかるた ルール>
1)自分なりの「インターネットのイメージ」を頭の中で思い浮かべる
2)スタッフの方が用意した30枚の画像の中から、自分のイメージしたものに近いものを選ぶ
3)選んだ画像の番号は伏せたまま、なぜその画像にしたのか選んだ理由のみを発表する
4)ほかの参加者は選んだ理由を聞いて、どの画像なのか予想する(チャットに記入)

私は、自分の中のインターネットのイメージとして「遠いところ・知らないものにアクセスできる」ということを思い浮かべました。用意された30枚の画像は、人物・動物などの具体的なものから、風景や自然、抽象画のようなものなどさまざま。自分が言葉で思い浮かべたイメージをもとに、視覚的なイメージを選んでいく作業は思っていたよりもむずかしく、とても悩みました。

ほかの参加者からは、「集合知のようなもの」「他人の世界をのぞき見れちゃう・カオスな感じ」「広大なイメージ」「楽しいもの・ポジティブなイメージ」などのインターネットのイメージが挙がりました。それぞれの発表を元に、どの画像を選んだのか予想しますが、同じ発表を聞いていても参加者によって全く違う画像を予想していました。はじめは「簡単に当てることができるかも!」と思っていましたが、全くそんなことありませんでした…!
言葉と画像それぞれのイメージをすり合わせることの難しさ・面白さを実感したと同時に、インターネットへのイメージが参加者それぞれで異なっているのはもちろん、言語化の仕方や、イメージの捉え方も多様であることがわかりました。また、これまでインターネットへのイメージを「言葉にして伝える」機会はほとんどなかったので、自分や自分以外の人がどのように感じているか、初めて向き合い共有できたのは新鮮な体験でした。

「インターネットイメージかるた」の様子
撮影:塩見浩介  写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
Photo by Kosuke Shiomi  Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]


SNSかくれんぼ
2つめのワークショップは、写真投稿型のSNSをイメージしながら情報発信や受け取り方について考える「SNSかくれんぼ」です。導入には、スタッフの方からの「SNSってなんだろう?」という問いかけがありました。「SNSとは⋯ソーシャル(社会の)・ネットワーキング(つながり)・サービス」のことであり、YCAMの解釈として「人と人がつながり、情報のやりとりしたり、メッセージなど伝えたりするインターネット上のサービス」との説明がありました。

少し話がそれますが、本ワークショップの対象年齢は「小学4年生以上」とのことで、全体的に小学生でもわかりやすいように設計されている印象でした。普段よく耳にする言葉とはいえ、専門用語が出たときに、いざその言葉について「説明して!」と言われると案外難しかったりします。一度立ち止まってわかりやすく説明してくれるワークショップの形式は、社会人の私にとっても内容がすっと入ってきました。ワークショップを企画する上で、誰にとっても理解してもらいやすいというのは重要な部分だなと感じます。

<SNSかくれんぼ ルール>
1)写真を投稿する(発信者)
  参加者それぞれが、自身で撮影した写真を2枚 YCAMに送る
2)投稿された写真をみる(受信者)
  2枚の写真をみて、どんな人が撮影したのか想像して、チャットにコメントしていく
  集まったコメントをもとに、その写真を投稿した人物の人物像について意見交換をおこなう

私は、海辺で撮影した写真と、車の中から道端を撮影した写真の2枚を投稿しました。 その写真について、以下のようなコメントがつきました。
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「海が好きそう」「〇〇の音楽聴いていそう」「女性かな」「秋とか冬が好き」「自然が好きそう」
「バイク旅って感じ」「自然よりも人工物が好きそう」「ひとりでいるのが好きそう」「DJの経験がありそう」 など
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「海が好きそう」などは、写真にうつっているものから直接連想したものとわかりますが、「〇〇の音楽聴いていそう」「一人でいるのが好きそう」などは、写真にはうつっていない、趣味や人格など私のパーソナルな部分についてのコメントでした。「DJの経験がありそう」という変化球なコメントもあり面白かったのですが、理由を聞くと「CDのジャケットにありそうだから、そこからDJを連想しました!」とのことで、写真にうつるものから徐々にその人の人格や行動に近いものへと連想していることがわかりました。たった2枚の写真から、私自身に「一致していること」と「関係ないこと・間違っていること」など、いろんな視点からのコメントをもらい不思議な気持ちになりました。

提供:山口情報芸術センター[YCAM]


対して自分が受信者の立場になり、写真に対してコメントするときには「この人は活発そうだな」「散歩が好きそうだな」「料理が上手そうだな」など、わずかな情報から一方的に想像してその人をわかったような気になっていることに気づきました。本当かどうかは関係なく、無意識の中で判断して決めつけてしまっている部分もあり、受け取った情報だけで一方的にその人のことを推し量るのは、ある意味怖いことだなと感じました。

SNSかくれんぼを通して、参加者からは「少ない情報から、その人のことを勝手に判断してしまうことの暴力性に気づいた」「写真からの情報に加えて、ほかの人のコメントを見たことでさらに想像が広がった」「写真からだけでも、自分の人となりが読み取られていて驚いた」などの感想があがりました。ワークショップの中であればコメントを共有して話し合うことで、発信者と受信者の間で生まれた誤解を解くことができますが、実際のSNS上ではなかなかそのようなことはできません。インターネットを介したやりとりには、このような認識のズレが少なからず存在するということに自覚的でいることが求められるのかなと感じます。

まとめ
インターネットに対するイメージや、SNSでのふるまいについて、自分や周りの人がどのような捉え方をしているのか、これまで言語化したり話し合う機会はなかなかありませんでした。対話をすることで、一人で考えることだけでは出てこない視点を見つけたり、気づくことができるワークショップの仕組みがとても興味深かったです。普段何気なく使っているSNSをはじめ、情報の発信者・受信者である自覚を持って上手に利用していきたいです。

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イベント関連情報
本ワークショップ「ネットにくらす、わたしのひみつ」は、YCAMが2020年から展開している
情報とインターネットの未来をテーマとした研究開発プロジェクト「鎖国[Walled Garden]プロジェクト」の一環として開催しています。2020年にはインターネットにおける個人情報の扱われ方について考えるワークショップ「わたしはネットでできている?」を開催されていて、本ワークショップは、そのプロジェクトの第2弾にあたります。
今年2022年には「鎖国[Walled Garden]プロジェクト」の集大成として、「コンピューターに理解できない人間のコミュニケーション方法」といったテーマでアーティストとともに展覧会を開催予定です。