詩 ・ 古賀 小由実
音楽が生まれるとき 初めはほんのひとかけらのフレーズが頭に浮かぶ 無意識と意識がせめぎ合いながら そのさきを紡いでいく 頭で考えるより 音を聴いて震える心が 心地よさを知るこの身体が音楽の行きたい先を元々知っている気がして 時には何も考えずに ゆらゆらと揺れる 体の船に全てを預けてみる 弦の震える音に 耳を澄ませて 心を澄ませて
水 こんこんと湧き出るままに 雨 しとしとと沁みてゆくままに 涙 はらはらと流れるままに 地球にじかんが在る限り 水は流れつづける 水は旅をつづける 私は巡りつづける 音も 光も 樹も 机も 懐かしい思い出も 私も あなたも 振動して存在して それぞれの音を持っている だから共鳴し合う たったひとつのその音に心が震える あなただけの音で ありのままの音で
「あの夏」と言われて 一番最初に浮かぶ夏 日に焼けた腕がジンジンと熱かったこと 昼寝してふくらはぎに畳の跡がついたこと 海に行った日の夜は布団の中で いつまでも いつまでも 体がゆらゆらと揺れていたこと ツクツクボウシやヒグラシが 私の心に もう直ぐ夏休みが終わっちゃう と、切なさを呼び起こします 大人になった今でも
水は記憶する 今触れる 蛇口の水も いつかどこかの赤ちゃんのよだれだった この足をひたす海の水も ある時まで十万年間 岩の中で眠っていた水蒸気だった 私の体の中にある水は どんな旅をしてきたんだろう ぷかぷか気持ちよく まあるくなって浮いていた頃を 私の体の中の水は 覚えていますか
せかいの子守唄 ある国では ロバの背中に揺られながら蹄のリズムで ある国では ジャングルの鳥や獣や虫の声 ある国では 子守ねえやの背に負ぶわれて 私たちは忘れても 体のどこかで覚えてる 夜をこえ 朝になってまた会えるまで またね またね ねんねんころりよ おころりよ
目、耳、鼻、口、肌 みんなそれぞれ自分だけの「感じ方」があり 私という感覚のハコの中から出ることはなかなかできない 私が見ている黄色い花を あのトンボは白い花として見ているかもしれない 私が話すささやき声は あの犬にとって怒鳴り声に聞こえているかもしれない 今、この文章を打ち込むために キーボードを触っていると思いながら 誰かのもちもちしたお腹を触っているのかも 私はあなたになることはできない 完全に理解することはできない けれど 作った音楽を聴いてもらう時はワクワクします