外出自粛が呼びかけられたゴールデンウィーク(GW)が終わりました。不便、不安、不満、退屈、窮屈……今年のGWを表現するならこんなことばばかり浮かんできそうです。列島が静まり返る異例のGW中は美術館やギャラリーも休館し、アートシーンも停滞していたかに見えますが、実は様々な動きがありました。GW中に佐賀のアートにどのような動きがあったかを振り返ってみます。
Webで発信し続けたsoil展が5月24日まで開催延長。会場を訪れ、Webでも楽しむ
さっそくですが朗報です。GWをまたいで「3person Exhibition soil」展を無観客で開催し、Web上で作品紹介を実施してきた佐賀市八戸のEdaume art studio(旧枝梅酒造)が、5月6日までの予定だった会期を24日まで延長し、観客を受け入れることを発表しました。
「3person Exhibition soil」展は日本画家・大串亮平さん、彫刻家・諸井謙司さん、陶芸家・興梠宜伸さんの3人展。かつての酒造の面影残る「東の蔵」という建物で、情趣あふれる日本画と、独自の人物観に自然を融合させた彫刻、大胆な造形の陶芸が共演します。
ここでGW前後のEdaume art studioによるWeb発信について振り返ります。コロナウィルスの蔓延を背景に多くのアートイベントが開催中止または延期に追い込まれる中、Edaume art studioはsoil展を無観客で開催することを4月19日に発表。25日以降、Instagramで作家本人が展示作品を紹介する動画をアップしていきました。YouTubeでは31作品の解説動画を配信しています。
見る者の心に確実に刺さる動画です。「作品に込めたストーリーは」「作品の素材は」「制作に用いた技法は」「遊び心を入れた箇所は」……作家本人の口からこれらが解説されることで、作品の持つ力が意外なほどの強さで迫ってきます。アートを見る側にも求められる想像力を飛翔させるための手助けをそっと行う。そんな役割を動画が果たしてくれます。
5月7日からの佐賀県の休業要請解除を受けて、満を持した形で観客受け入れを発表したEdaume art studio。マスク着用や少人数での来場など、感染予防対策を行った上で来場しましょう。事前に動画を見てワクワク感を高めた上で会場に向かうも良し、会場で作品を目の当たりにした後に動画で復習するも良し。コロナ禍中ならではの新しい試みが鑑賞の喜びを増してくれることは間違いありません。
毎年恒例の有田陶器市がWebで開催された! 焼き物業界の新たな展望
例年GW中に開催される有田陶器市は開催延期を余儀なくされました。
代わりに有田商工会議所が開催したのがインターネット販売「Web有田陶器市」です。陶器市と同じ4月29日から5月5日まで行われた初めての試みでした。
佐賀新聞によると、有田商工会議所の支援を受けて、ネット販売用の自社サイトを持っていない事業所も相次いでサイトを開設。同業者どうしの団結でWeb有田陶器市を実現しました。結果は、予想を上回る売れ行き。今後厳しい状況が続くことが予想される焼き物業界ですが、商工会議所では各事業所の業績回復に向け、引き続きネット販売を支援していくとのことです。
陶器市ならではの雑踏、大切に保存されてきた街並みのあちこちから伸びるレンガの煙突、街なかを流れる有田川・白川の清流。新緑に包まれた山間の町を実体験できなくても、注文した商品が届いたら、有田の光景に思いを馳せることができそうです。
今後、ネット販売が促進される中で、今まで有田を訪れたことがなかった・有田焼を知らなかった層にもファンが増え、新たなファンがコロナ終息後の現地を訪れる。そんな好循環が期待されます。
アーティストとギャラリーを応援!「密」なTシャツで心に弾みをつける
佐賀市水ケ江のパハプスは作品を発表する場を失ったアーティストたちを支援するため、Tシャツを作成したことをGW中に発表しました。PERHAPS ONLINE STOREにて発売されています。
Tシャツのテーマはなんと「密(meets)」!「3密」回避はみんなで取り組むべき課題ですが、「密」を避けるほどに「密」が恋しくなってくる人、多いのではないでしょうか。デジタル大辞泉によると「密」はすきまなくぎっしり詰まっていること、そして、関係が深いこと・親しいことやそのさまという意味があります。「コロナ終息で早く『密』を楽しみたい」というのはこの状況下での密やかな願いです。
松尾浩一さん、河合浩さん、姉妹ユニットのちえちひろさん、それぞれが「密」をユニークに表現したイラスト入りのTシャツは「人が集うこと・親しくすること=密」の良さをしみじみ感じさせます。今は満たすことのできない「密」への欲求を、「密」なTシャツをまとうことで発散してみませんか。もちろん、購入すること自体がアーティストとギャラリーへの応援になります。
サイズはメンズS・M・L・XL。女性がぶかぶかっとラフに着るのも良さそうです。自分用に買うのはもちろん、家族や友人にプレゼントするのも素敵ですね。受注締め切りは5月18日(月)23:59です。お急ぎください。
日々模索し、かつての様式を更新していく過程で拓ける、新しい社会
最後に、コロナ禍の只中にある社会をアートの発信地から応援する取り組みを紹介します。
佐賀大学美術館は新型コロナウィルスに立ち向かう医療従事者への感謝と激励を示すため、4月30日からブルーライトアップを始めました。緊急事態宣言が解除されるまでの間、毎日午後7時から12時まで美術館が幻想的な姿を見せます。
佐賀大学では美術館前に駐車しての観覧や、集団での観覧を避けるよう呼び掛けています。「密」はもうしばらく我慢しつつ、密かに応援したいものです。
Webを活用した事例を中心に、GW中の佐賀のアートを振り返りました。
やむなく休館した美術館やギャラリーでも「非常時にいかにアートを守り、発信していくか」などについて検討を重ねられたのではないかと推測します。停滞しているように見えるアートシーンは確実に動いているのではないでしょうか。
GW終盤の5月4日、政府の新型コロナウィルス感染症対策専門家会議が「新しい生活様式」を提言しました。アートの現場でも日々、「新しい展示様式」「新しい表現様式」「新しい鑑賞様式」が生まれています。制約の多い生活の中で誰もが模索するこの時代が、いずれ訪れる明るい未来の母胎となることを願います。