毎年恒例、「黒髪山陶芸作家村 秋の窯開き」が今年も開催されます。今回はWEBで同時開催されることが特徴。11月20日(金)からの開催に向けて、ぽたり編集部では参加される窯元さんへの取材を行いました。6回連載の第1回は辻󠄀修窯の辻󠄀 修さんにご登場いただきます。
試行錯誤でたどり着いた藍色の、さらなる可能性を追求
黒髪山の陶芸家の中でも古参にあたる修さんは、ご子息の天游馬さんやスタッフの皆さんと共に制作されています。「黒髪少年自然の家」の敷地を抜けた先にある、1階が作業場、2階がギャラリーになっている建物は、ちょうど黒髪山に抱かれた形です。
独特の深みを湛えた呉須(ごす)と釉(ゆう)の色味に目を奪われますが、この美しい藍色も、すぐに認められたわけではありませんでした。
「もともと、うちの呉須の色味はたまたま出たもの。最初は『これは有田焼じゃない』とか言われてね。市民権を得るのに10年かかりました」
修さんは飄々と語ります。
ご子息の天游馬さんは修さんの技法を受け継ぎながら、新しい表現を追求しています。空や海、樹木の表現に感性が活き、創造に対する情熱がダイレクトに伝わってきます。
想像を絶して緻密、そして想像を絶して自由
取材に訪れた際、修さんは絵付けの最中でした。その作風を知っている人でも、作業風景を目にしたら驚くことは間違いありません。素焼きした器に細い線を無数に描き込んでいく、素人からすると気の遠くなるような作業。器の内側に線を描くのはとりわけ難しく、時間がかかるそうです。
「うちの作品は薪窯ではだめで、ガス窯なんです。ガス窯で10度とか20度とかの違いをぴしっと管理しないと細い線がきれいに出ない」と修さん。
「野の花を描いた焼き物なんか人気だけど、そればかり描いても面白くない。売れ筋じゃないモチーフを、焼き物が売れない夏場に汗だらだらで描いてるの。描くうちにどんどんイメージが浮かぶんです。次はこれ描いてやろうみたいな感じで」
トンネルを抜けた先は黒髪山という架空の駅。入り乱れるように生い茂る植物。黒髪山の自然をベースにしつつも、独特の不思議な世界観に魅入られます。
「葉っぱをたくさん描いているときなんかは、『はははははは』と笑いながら描くんです」とご冗談を。直径1メートルもある大皿に花をミリ単位で描いた作品には「描き過ぎ」というツッコミのようなタイトルが貼ってありました。
とにかく明るい修さんは、作業中に訪れた人から「辻󠄀さん静かに仕事するんですね」と言われることもあるそうです。「そりゃ喋りながらは仕事できないよ」
作業場の奥ではスタッフの吉富莉世さんが制作中。写真は素焼き後に絵付けした状態です。動物の姿態の細かい描写が印象的。
黒髪山という環境について、修さんはこう語ります。
「昔から山登りが好きで、窓から雄岩・雌岩が見えるこの環境はやっぱり好きです。お客様にもゆっくり景観を楽しんでもらいたい。わっと来てわっと帰るんじゃなくて。次から次へ窯元を回ろう、みたいなスピード感は、ここではいらない」
緻密なのに堅苦しさは一切なく、悠々と遊んでいる。見る者にそんな印象を与える辻󠄀修窯の作品を裏づけるようなことばです。
※「第22回 黒髪山陶芸作家村 秋の窯開き」(11月20日~23日)は、新型コロナウィルス感染の拡大状況によって、WEB会場のみの開催になる場合があります。開催状況については、各参加窯元へお問い合わせください。
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